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8-「?」

「しっ、式部っ、おっおっ、おはよ!!」 「あからさまに動揺し過ぎだぞ、宇野原」 「……おはよう、宇野原、北」 悪夢の一夜(ハロウィン)が過ぎ去って訪れた十一月、朝の教室で顔を合わせて気まずそうに挨拶を交わした中学生三人。 「二人とも、お店に残して一人で勝手に出て行ってごめん。あの後は大丈夫だったか?」 自分の席に着いていた北、その机にしがみついて床に座り込んでいた宇野原は揃って目を見張らせた。 「式部こそ大丈夫だった!?」 「え」 「式部がダッシュで店から出て行った後、ジェイソンが猛ダッシュで追っかけて行ったから」 「あ」 『ワン』 いつものように隹川に好き勝手にされたことを思い出して式部は素直に赤面してしまう。 そんな優等生を前にし、何もかもが初体験だったナイトクラブで式部が隹川に強引にキスされていた光景が生々しく蘇り、宇野原と北もつられて赤面してしまう。 「ま、まぁコッチは大丈夫だったよな、宇野原?」 「う、うん! あのえっちなコスプレしてたナースの人のお兄さんだっけ? イケメンファントムがタクシー代くれた!」 「迷惑かけたからって、さ」 「おっかないジェイソンより、ぜんっぜんイイ人だったよ!」 担任がやってきたので話はそこで中断になった。 自分の席に着席した式部は、まだちゃんと教えていなかった隹川との関係を根掘り葉掘り聞いてくるわけでもない友達二人に感謝しつつ、タクシー代をくれたという<イケメンファントム>のことが気になった。 ナースの格好だった人はセラ、そのお兄さんは繭亡、確かそう呼ばれていた。 僕がうっかり置き去りにした二人の面倒を見てくれたのか。 お礼をしなきゃ。 でもどうやって? 隹川なら連絡先を知っているだろう、でも、教える代わりに性的な見返りを求められそうで嫌だ……。 それぞれの席で宇野原と北が生々しい回想に捕らわれて未だドギマギしている一方で式部は表情を曇らせた。 隹川との関係。 説明の仕様がない。 オモチャ扱いされてるなんて自分の口から言いたくない。 いつまで経っても手加減してくれない過激な高校生に淋しさやら疎外感を募らせた不憫な中学生は、いつもと変わらない教室の片隅で、一人ため息を押し殺した。 その日、学校が終わり、隹川のことや繭亡へのお礼をどうしようか考えながら下校しようとした式部であったが。 「ああ、よかった、そんなに待たずに済んだ」 校門を抜ければ、ガードレールにもたれているだけなのに主に女子の注目をビシバシ集めている繭亡を見つけ、びっくりした。 「繭亡さん、どうしてここに?」 襟に校章のついたライトグレーの学ラン、幼稚園から大学までの一貫教育を導入している私学の制服をスラリとした体型でスマートに着こなした、麗しく整った顔立ちの繭亡は。 ガードレールから身を起こすと駆け寄ってきた式部に微笑みかけた。 「俺の名前を覚えていてくれてどうも、式部」 あれ……? 些細な違和感を覚えた式部は切れ長な目を震わせた。 「その白ブレザーでこの学校の生徒だということはわかっていた」 「あ……そうですよね」 「ハロウィンでは隹川が迷惑をかけてすまなかった」 「っ、こちらこそすみません、宇野原と北がお世話になりました」 「ふふ。小さな割に随分としっかりしているものだな。阿羅々木と並んだらまるでこどもだ」 繭亡には連れがいた。 寡黙で、前回会ったときと同じく黒ずくめ姿の、カラスマスクは今回つけていない長身長髪の阿羅々木が隣に立っていた。 「阿羅々木、学校をさぼったのか?」 「阿羅々木の学校は制服が指定されていない。私服通学だ。ちなみに偏差値ランキング上位の進学校でね」 「そうなのか。ごめん」 勘違いをすぐさま詫びた式部に阿羅々木は不機嫌そうにするでもなく大きな手で小さな頭を撫でた。 「今日来たのは君と話がしたかったからなんだ」 口を開くのは繭亡ばかり、やっぱり寡黙な阿羅々木に頭を撫でられながら式部は首を傾げる。 「僕に話……ですか?」 「阿羅々木には砕けた言葉遣いなのに俺には敬語を使うんだな」 ……無意識の内の選別だった。 「まぁいい。どこか店に入ろう」 宇野原と北は別のクラスの友達とカラオケへ、自分は真っ直ぐ帰宅するつもりだった式部は返事に迷った。 躊躇する中学二年生の肩を抱いて寄り道をやんわり強制した見目麗しの高校三年生。 「お子様でも安心できる禁煙・禁酒のクリーンな店にしておくか」 なんだろう。 笑っているのに、口調は穏やかなのに、繭亡さんの視線や言葉が胸にチクチク刺さる……。

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