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繭亡が選んだ場所は市街地に建つ図書館に併設されているカフェだった。 学校の制服を着用した客は繭亡と式部くらい、年齢層はやや高め、本を読んでいるお一人様もちらほら見受けられた。 「え……?」 日当たりのいいウッドデッキのテラス席。 離れたテーブルにつく女子大生グループとやたら目が合い、居心地が悪かった式部は、さらなるどん底の居心地に突き落とされる羽目に。 『隹川と幼馴染みなんですよね』 差し障りのない話を始めたつもりだった。 それまでは単調でありふれた会話が流れていたはずだった。 『そう。アイツは昔から欲張りでね。人のお菓子をよくほしがった』 隹川らしいというか、小さな頃からきっとあんな性格なんだろう、そんなことを思う余裕もあった。 『だからシェアするのが習慣になった』 シェアする……。 分け合ったり、はんぶんこにしたり? 隹川、はんぶんこで満たされたんだろうか? 自分が気に入ったものなら丸ごと食べなきゃ気が済まなさそうだ。 俺様な性格である隹川の幼少期を想像して可笑しくなったのも束の間のことだった。 『女もよくシェアした』 女も、よく、シェアした……。 何でもないことのように繭亡の端整な唇から放たれた台詞を頭の中で反芻し、その意味を把握したとき、式部の表情はみるみる強張っていった。 丸テーブルを挟んだ向かい側、足を組んで座る繭亡はモカコーヒーにおもむろに口をつける。 式部の斜向かいに座る阿羅々木は会話に入る素振りも見せず、すでにブラックコーヒーを飲み干していた。 「高校に入って三年に上がる頃まで。もちろん相手も合意の上で。下品に言えば乱交か」 早熟にも程がある高校生の経験談。 初心な中学生にとっては相槌を打つのも困難な理解し難い内容だった。 「性においてはあの頃が一番有意義だったかもしれないな、そう思わないか、阿羅々木?」 阿羅々木もいっしょに……? みんなで、そういうことを……? ついていけない。 それとも高校生ってそういうものなのか……違う、そんなわけがない。 隹川達が異常なだけだ。 どうかしてる。 「隹川が男を相手にするというのは初めて聞く」 無口な阿羅々木とはまた違った意味で先程から何も言えずに押し黙っている式部の頬が赤くなった。 繭亡は片頬杖を突く。 きめ細やかな頬に優艶な輪郭をした指を添え、項垂れている中学生を堂々と値踏みした。 「そういえば専用のオモチャだとか言っていたな」 一番触れてほしくない汚点を突っつかれて式部は限界まで顔を伏せた。 「最初は物珍しくて構いたくなる。でもいずれは飽きが来て放置される」 ずっと愉しげに敵意を振り翳されていた式部は。 伏せていた顔を上げた。 悠然と構えている繭亡と真っ向から対峙した。 「繭亡は隹川のことが好きなのか?」 直球の問いかけをブン投げられた繭亡は。 不意に手を伸ばした。 式部の顎を掴むなり自分の方へ引き寄せた。 「釣り合わない」 女子大生のグループがざわつく中、驚きで目を見開かせている式部に優しくも残酷な微笑を惜しみなく注いだ。 「恋愛は背伸びせずに身の丈に合った階級で愉しんだ方がいい」

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