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図書館の屋上は庭園になっており、開館している間は出入り自由になっていた。 「隹川とはどうやって出会った?」 常緑低木、多年草や芝生といった緑溢れるスペースは広く清々しく、憩いの場として整備が行き届いていた。 「隹川は……僕のことを助けてくれた」 先程まで地上に注がれていた西日はかすれ始め、吹く風は冷たく、二人と擦れ違ったカップルは「寒い」と言い合いながら館内に戻って行った。 「アイツが人助けか」 「う……うん」 その後ひどい目に遭ったけれど、と式部は心の中で呟いた。 複数設置されたベンチの一つに二人は並んで座っていた。 クラクションやサイレンによる街中の喧騒が三階建て図書館の屋上にBGMさながらに流れ込んでくる。 遥か頭上は深い藍色に浸されつつあった。 「……」 会話が途切れて式部は首を傾げた。 どうして阿羅々木は僕をここへ連れてきたんだろう。 繭亡みたいに中傷するつもりはなさそうだけれど。 ……あの話、信じられない。 ……でも本当のことなんだろう。 もしかしたらこれから先もありうる話なのかもしれない。 まだそこまで面識のない寡黙な阿羅々木を隣にして式部も同様にダンマリした。 隹川が僕以外の誰かと……そんなの嫌だ。 哀しいしつらい。 でも僕はオモチャに過ぎないからどうにもできない。 もしかしたら今もどこかで誰かと。 チェック柄のズボンの上で式部の両手がぎゅっとこぶしをつくった。 長々と続く沈黙に気まずそうにするでもなく、阿羅々木の隣で出口の見えない疑心暗鬼の迷路にひっそり落っこちた。 僕、いつ捨てられるんだろう。 いつ来るかわからない終わりを待つのはとても怖い。 いっそ自分から終わらせた方が楽なんじゃ。 メールが来ても、電話が鳴っても、無視して、なかったことにしようか。 『俺のことブロックしたら監禁な』 ……隹川、あれ、本気で言っていたんだろうか。 「……」 式部は目をパチクリさせた。 何の前置きもなく阿羅々木にまた頭を撫でられて、もう恥ずかしがるのも今更なような気がして肩を落とした。 「僕ってそんなにこどもっぽいだろうか」 「半分こどもだから当たり前だ」 ……阿羅々木もそういうことに加わっていたのは何だか意外だ。 まだ二回しか会ったことがないし、こども扱いしてくる、お酒を一気飲みするような人だけど。 基本は物静かで一緒にいてあんまり緊張しないから。 波長が合うのかなって……。 「アイツのそばにいる限り延々と苦労する」 式部は再び目をパチクリさせた。 「可哀想な式部」 今度は中傷ではなく真っ向から同情されて反応の仕様がなかった。 腹立たしい気持ちが湧いてくるわけでもない。 ただただ阿羅々木を見つめ返していたら。 「えらくよさげな雰囲気だな」 どこかで聞いたことのある台詞が式部の鼓膜に突き刺さった。

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