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「飼い主にコソコソ黙って別の新しい飼い主を品定め中か、式部」
隹川だった。
式部と阿羅々木以外にもまだ人が疎らにいる屋上庭園を訪れた彼は、深緑のブレザーにストライプ柄のネクタイという制服姿で軽そうなスクバを肩に引っ掛けていた。
いつになく殺気立った眼差し。
射貫く勢いで見据えられた式部はワケがわからずにたじろいだ。
「隹川、どうしてーー」
「どうしてここに来たかって? 繭亡がご丁寧に教えてくれたんだよ、お前らが随分とフザけた真似おっ始めようとしてるってな」
兄を溺愛する弟・獅音に定期的に染められている髪が夕焼けの残光を掬い上げて炯々 と耀いた。
隹川、怒ってる。
怒られるようなことなんか何にもしてないのに。
「フザけた真似なんかしていない、そもそも今日は繭亡にーー」
「うるせぇ黙れ」
立て続けに発言を遮られて式部はぐっと声を詰まらせる。
二人が座るベンチまでやってきた隹川は閉口した式部を一瞥し、次に阿羅々木を睨めつけた。
「電話に出ねぇのはわざとだよな?」
「電話したのか。気づかなかった」
「変わりモンだからって何しても許されると思うなよ、阿羅々木」
屋上の一角で険悪な雰囲気をムンムン醸されて利用者の数人が庭園をそそくさと去っていく。
鋭い眼光をこれでもかとひけらかす隹川を阿羅々木はしばし無言で見、淡々とした口調で「息が荒い」と呟いた。
「式部を連れ戻すために走ってきたのか」
隹川は答えなかった。
代わりに、制服ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、阿羅々木と式部の間に僅かに生じていたベンチのスペースにマナー違反よろしく荒々しく片足を叩きつけた。
「ッ……隹川」
式部は小動物みたいにビクッと反応した。
自分の意思を平気で無視して蔑ろにしようとする隹川にとてつもなく悲しくなった。
「お前は丁度いいときに来てくれた」
反対に阿羅々木は至って平静であった。
怒っているのが一目瞭然な隹川に対し、まるで逆効果じみた単調なリズムで話しかけ、その上、式部の頭をまた撫でた。
「前に俺に聞いただろう。式部と遊んでみたいか、どうか」
答えはイエスだ。
「俺も式部と遊んでみたい」
式部は……絶句した。
「遊ぶ」というのが、鬼ごっこだの、アスレチックで駆け回るだの、そういうニュアンスでないことは嫌でもわかった。
「前みたいに分けてくれ」
波長が合うかもしれないと、友人として心を許しかけていた阿羅々木の思いも寄らなかった発言に失望して顔を伏せる。
同時に隹川の回答を恐れた。
「いいだろう、隹川。何か不都合なことでもあるか?」
隹川のことだから幼馴染みに平気で貸すかもしれない。
お古みたいに投げ捨てられるかもしれない。
僕はオモチャだからーー
「断る」
涙ぐんでいた式部の双眸が静かに見開かれた。
「式部ははんぶんこできねぇ」
伏せていた顔を恐る恐る上げ、まだ片足をベンチに乗り上げさせたままでいる隹川を見つめた。
「誰とも共有しねぇ」
三日月の吊り下がる夕闇を背にし、不敵な目にありったけの欲望をこめて彼は言い放つ。
「爪の先まで、睫毛の一本だって、丸ごと俺のだ」
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