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9-「まぁどっちにしろお前は俺のおやつだ」

「ねーねー、あの話聞いた?」 「あの話聞いた! ウチの学校の生徒が図書館で公開チューしてたってやつでしょ!?」 「しかもどっちも男」 「やばすぎ!」 二時間目に行われる体育の授業のため、渡り廊下を進んで体育館棟に向かっていたら聞こえてきた会話。 式部にとって身に覚えがあり過ぎた。 「今の話、まさか式部のことじゃないよな?」 「え!? なんで式部が男とチューなんか、ハッ、まさかあのおっかないジェイソンと、もごごっ!」 一緒にいた北に問いかけられ、宇野原に騒ぎ立てられそうになって、式部は慌てて宇野原の方の口を塞いだ。 「っ……僕からお願いしたわけじゃないし、隹川から無理やり……僕は嫌だったんだ……」 「……否定しねーのかよ、肯定しちゃうパターンかよ」 「……もごご」 月末に期末テストが実施される十一月、いつにもまして自主学習に集中し、しっかり睡眠をとり、規則正しい放課後を送るよう努めた。 十二月に突入すると、三者面談のため授業が短縮されたり、校内合唱大会やマラソン大会があったりと、いつにない駆け足で残りの二学期は過ぎ去っていった。 そして。 「うわぁっ、式部すごいっ、オール5じゃん! おれにも分けてよ~!」 「声が大きいし、覗き見しないでくれ、宇野原」 あっという間に迎えた終業式。 優秀な成績をおさめ、明日から冬休みであるというのに、式部の顔色は何故だか優れなかった。 『お前も来い、式部』 ……本気なんだろうか、隹川。 ……冬休み中、繭亡の別荘に遊びにいくから、僕も来いなんて。 どう考えても嫌な予感しかしない。 「式部、一緒に昼ごはん食べよう!」 「冬休みはどっか行くのか?」 心配をかけそうで宇野原と北には伝えていなかった。 電話で誘われた際、二人を連れてきても構わないと隹川に言われたが、ハロウィンのときのような迷惑はもうかけられないし。 オモチャ扱いされて翻弄されっぱなしの情けない自分をこれ以上友達に見られたくなかった。 「冬休みの予定は、特に、ない」 だから式部は嘘をついた。 ちょっぴり胸は痛んだが、宇野原と北を守るための仕方ない嘘だと、自分に言い聞かせた。 「賭けをしないか、隹川」 悲しいことに式部の嫌な予感は的中することになる。 「賭け? へぇ? 阿羅々木にも遊び心なんてものが備わってたんだな」 高校生のふざけた遊びの巻き添えを喰らう羽目になる。 「それなら俺が中立的立場として公平にジャッジしてやろう」 「繭亡、お前どう考えても中立じゃねぇだろ、イカサマはお断りだぞ」 「勝者が手に入れるのは式部」 「へぇ? 俺がもう手に入れてるモンをテメェが堂々と横取りするって算段かよ、阿羅々木?」 彼らの犠牲になることも知らないで式部は。 「何泊するのか聞かなかったけれど、まさか冬休み中ずっとなんてことは……」 あまり気乗りしないものの、隹川の命令ならぬお誘いを無下にはできず、お泊まりの準備を仕方なく始めるのだった……。

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