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10-「いつだって、どこにいようと、俺はお前のモンだからな」
繭亡と阿羅々木は高を括っていた。
「式部、大丈夫!?」
散々な賭けごとに巻き込まれて自ら別荘を飛び出していた式部は、翌朝、隹川に連れられて戻ってきた。
「セラ、心配かけてごめん……」
「いいの! 式部は謝らなくていいの! きっと悪いのは隹川なんだから!」
清々しく澄んだ青空、朝日が惜しみなく降り注ぐウッドテラス。
セラのお古であるニットワンピに隹川のミリタリージャケットを羽織った式部は、申し訳なさそうに大判ストールを抱えていた。
「これ、クリーニングに出して返す」
「いいの! クリーニング代は隹川に出してもらうから! 寒いし早く中に入りましょ、あ、その靴可愛い」
「これは、百合の館ーー……親切な女の人にもらった」
別荘の中にいた繭亡と阿羅々木もテラスに出てきた。
賭けごとの参加者であった二人に式部は表情を硬くしたが、深呼吸を一回、そして陥れられた被害者でありながら自身の振舞を律儀に詫びようとした。
「悪かったな、繭亡、阿羅々木」
寄り添っていた隹川が式部よりも先に謝罪した。
「俺のことが心配で一睡もできなかっただろ。迷惑かけたな」
アウターを式部に羽織らせて薄着の彼は寒さに縮こまるでもなく、堂々と背を伸ばし、ぞんざいに笑う。
詫びられている気が微塵もせずに、繭亡は肩を竦めてみせ、阿羅々木はノーリアクションで受け流した。
「獅音はどうした」
「あー、アンタの弟はソファでぐーすか寝てるけど」
「起こして朝飯にしよう」
「そうね、お腹空いた! 私が全力で叩き起こしてあげる!」
「セラ、暴力はだめだ……」
隹川に肩を抱かれた式部は慌てて振り返ると「昨日は、突然いなくなったりして、ごめんなさい」と伏し目がちに加害者二人に謝った。
昨夜、ほぼ主犯格であった隹川の頬を引っ叩いて「大嫌いだ」と叫んだ式部が当の相手にすんなり身を預けている。
この一夜の間に何かあったのだろう。
賭けごとの景品に勝手に据えられて式部が抱いた不安や不信感を拭い去るほどの「何か」が。
それでも。
やはり繭亡と阿羅々木は高を括っていたのだ。
隹川と式部は何もかも違う。
違いすぎる。
そんな二人が長続きするわけがない。
それに次の夏を過ぎれば隹川はーー
そもそも不釣り合いな関係など、いずれ呆気なく終わるとーー
「式部が拉致られた」
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