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信号無視、やたら鳴らされるクラクション、まるでなっていない運転マナー。
おかげで式部は本当に車酔いしてしまった。
「どうして、こんなこと……?」
周囲に尋ねても意味もなく笑い飛ばされるだけ。
四人とも特にガラが悪いというわけではない、流行に乗った髪型や服装でこぎれいな身なり、むしろ全員が育ちのよさそうな好青年風であった。
どうしてナイフなんか持っているんだろう。
この人達、何をするつもりなんだろう……?
正面で手錠をかけられた両手。
鞄を握り締め、心細さや不安に俯いて耐えていたら、頭痛を促す騒々しい音楽がふと鳴り止んだ。
「クソ生意気な隹川くんをパーティーに呼んであげて?」
顔を上げれば目の前に翳されていたスマホ。
「オトモダチのためなら来てくれるでしょ」
流れていた呼び出し音が途切れる。
「誰だ」
隹川の不親切極まりない第一声を聞いた瞬間、式部は叫んでいた。
「隹川、来るな……!!」
助手席の彼は動じる様子もなく、スピーカーモードに設定済みのスマホを式部から遠ざけた。
同乗者がけたたましく笑い合う中、上機嫌な様子で隹川に語りかける。
「隹川くん、久し振り、その節はどーも。オレのことわかるかな? 一年くらい前かなー、隹川くんに彼女を寝取られた被害者の者なんですけどー」
式部は眉根を寄せた。
どうしてみんなゲラゲラと笑っているのか、一体何が可笑しいのか、ちっとも理解できずに恐怖すら感じた。
「隹川……っ……来ちゃだめだ……」
ここにいる全員がそうなのか、わからないけれど。
助手席の人は隹川に敵意を抱いてる。
「今からオレらパーティー開く予定で? 隹川くんをご招待しようと思いまして? オトモダチの方は前もって強制参加させていただきましたー」
車に乗せられたとき、もっと抵抗すればよかった。
大声を上げて人を呼べばよかった。
「隹川くんが不参加キメたら、ショック過ぎて、オトモダチに八つ当たりしちゃうかも」
そうすれば隹川に迷惑かけずに済んだのに……。
「つぅかさ、ほんとにこんなガキとデキてんの?」
キャップをかぶった隣の男が馴れ馴れしげに式部の頭を撫でた。
「隹川くんってホモなんだ~」
「男の子とかないわー」
「男女どっちもいけるからバイってやつ? さすが節操ナシ」
式部はぐっと唇を噛んだ。
「節操ナシ」であることは、まぁ確かに当てはまるかもしれない。
しかし、こうもあからさまに貶されると腹が立った。
「女のコだったらさぁ、こっちもいろいろ楽しめたんだけどね?」
こんなの犯罪だ。
僕、どうしたらいいんだろう、隹川ーー……。
「式部に手を出したら殺す」
隹川の犯罪者まっしぐらな発言が耳に飛び込んできて式部は青ざめた。
そうだった。
隹川は隹川なんだ。
不躾なお誘いに頗 る機嫌を悪くして、渋々やってきたパーティーで、流血沙汰レベルで暴れ回るかもしれない……。
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