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西日と宵闇の濃淡が色鮮やかになってきた頃、隹川は屋上へやってきた。
「あれ、繭亡くんと阿羅々木くんも連れてきたんだ?」
早坂はベンチに座って二本目の缶ビールを飲んでいた。
二人の飛び入り参加に機嫌を損ねるどころか、むしろさらにハイテンションになって男子高校生らを出迎えた。
「相変わらず男前だねー、隹川くんは」
先頭にいた隹川は忌々しいパーティーの主催者を睨むでもなく。
寒々しい屋上に踏み込み、式部の居場所を目視で確認した瞬間、思わず立ち尽くした。
式部は早坂と和久井の間に座っていた。
和久井は式部を強引に上向かせ、自分が手にした缶ビールをその口元に押しつけ、嫌がる中学生に嬉々として酒を飲ませていた。
「げほ……っ」
腹底で食い止めていた殺意が猛然と暴れ、隹川は、標的を絞り込む。
すぐさま呪縛を振り解くと外敵と見做した相手に近づこうとした。
「ストップ!!」
制止したのは早坂だった。
手元に置いていたナイフを持ち、小型の刃を式部の鼻先に掲げてみせる。
「隹川くんがパーティー台無しにしたら、オトモダチの式部くんに八つ当たりしちゃうかも」
得意気に笑う早坂の隣で式部がまた咳き込んだ。
手錠をかけられた両手で濡れてしまった下顎を拭い、そして、屋上に到着していた隹川をぼんやりと眺めた。
「……す、い、かわ……?」
周囲の笑い声や街の喧騒に今にも掻き消されそうな覚束ない呼号だった。
「隹川、彼らは本気じゃない」
早坂に言われるがまま立ち止まった隹川の背にすっと歩み寄り、繭亡は耳打ちする。
「将来を棒に振るつもりはさらさらない。精々、軽傷を負わせる程度だろう。このままオモチャを奪い返したらいい。酔っているようだが、切創 の一つや二つ、式部なりに覚悟しているさ」
「黙れ」
低く唸るように隹川は吐き捨てた。
「式部に触るんじゃねぇ」
次に正面切って言い放つと、さらに湧いた大学生一同、後から加わった仲間も含めて十一人いた。
「ガチ過ぎだって」
「やばい、ドラマみたいで泣ける」
「これくらいなら許されるかなー?」
仲間と一頻り笑い合った後、調子に乗った和久井は顔色の悪い式部の頬を軽々しく叩 いた。
「う……」
ずっと無言でいた阿羅々木は。
華奢な中学生を愉しげに甚振 る連中を嫌悪し、立ち止まったままでいる隹川を追い越して何の罪もない式部を助け出そうとした。
「やめろ」
隹川は片腕を伸ばして阿羅々木の進行を妨げた。
「阿羅々木も繭亡も余計な真似するな」
幼馴染み二人を押しとどめて一歩前へ。
ナイフを和久井に手渡し、人質を手中にして愉悦が止まらない早坂に告げた。
「何でもしてやる。代わりに式部を無傷で離せ」
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