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ーーそんなこと絶対にさせないーー 胸いっぱいに満ちた強い思いに背中を押されて式部は動いた。 自分を捕まえている和久井の、ナイフを持つ手に、迷いを捨てて思いきり噛みついた。 「いッ……!?」 足元にナイフが落ちる。 無我夢中で蹴っ飛ばした。 不意討ちの抵抗に和久井は悶え、両腕による拘束が緩み、式部はやっと居心地の悪い懐から脱した。 自分自身がこれ以上隹川の(かせ)にならないよう、手錠をかけられたバランスがとりづらい身で、人質という立場から少しでも逃れようとする。 だが、隙をつかれて逆上した和久井に式部はすぐに再び捕まった。 背後からダッフルコートのフードを掴まれ、そのまま力任せにコンクリート床目掛けて体ごと叩きつけられた。 「式部」 阿羅々木は思わず呼号し、繭亡の吐き気は増した。 早坂に注目していた他の大学生らは突然の出来事にポカンとする。 本日のパーティーの最高潮に達するはずが、出鼻を挫かれて、早坂も呆気にとられていた。 「和久井、何やってーー」 問いかけは途中で途切れた。 頭を垂れる寸前だった隹川に下腹を蹴り上げられ、早坂は、出入り口の方へ吹っ飛んでいった。 和久井や、他の大学生らは、かろうじて息だけ呑んだ。 式部は床に蹲ったまま動かない。 ビルの狭間に引っ掛かった三日月を背にして隹川は口を開く。 「無傷で離せ、そう言っただろ……?」

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