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コートを着用している生徒は疎らで、過半数を占めるブレザー姿の三人は生徒用玄関から外へ。
「曇ってて尚更寒いよ~」
「雪とか降ったりしてな」
「なにそれ、ホワイトクリスマスってことかよ~?」
ネイビーの縁取りが際立つオフホワイトのブレザー、学校指定のセーターを着込み、ネクタイをきちんと締めた式部は曇天を見上げた。
「式部は隹川サンとイブデートなんだよな」
北の言葉に滑らかな真珠色の頬はバカ正直なくらい紅潮した。
寒風 に控え目に靡く癖のない髪。
マフラーに隠されたすっきりとした頤 、浅い凹凸 のある喉元。
中学時代、やや丸みを帯びて少女めいていた輪郭は今やシャープになっていた。
「やらし」
「ッ……宇野原、今、何て言ったんだ?」
「イギリスから帰ってきた彼氏とクリスマスデートなんてやらしい!」
すぐ近くを歩いていた下級生が振り返り、式部は耳まで赤くなった。
「声が大きい!!」
無人であるグランドの脇を通って、下校する他の生徒と共に校門を抜ける。
学内の片隅に立つ広葉樹の色褪せた葉が風に吹かれて舞った。
三秒間、乾いた空気を軽やかに浮遊し、彼の足元へと落下した。
「あ」
声を上げたのは宇野原だった。
式部からぱっと離れて北の隣に移動する。
ガードレールに腰かけた彼に式部は釘付けになっていた。
「隹川」
今日会う約束はしていたが、夕方の予定で、場所も当然ここではなく。
予想外のフライングに脳内処理が追いつかず、棒立ちになっている式部に、隹川は笑いかけた。
ガードレールから腰を上げ、無造作に結んだハーフアップの髪を翻し、恋人のすぐ目の前へ。
「あ!」
真後ろにいた宇野原と北、居合せた生徒や通行人の存在などまるで気にせずに、キスを。
十七歳になった式部を力いっぱい抱きしめた。
「また育ったんじゃないのか、式部」
二十一歳の隹川にハグされた式部は、キスされたばかりの唇をわなわなと震わせ、これ以上ないくらい赤面した。
「夏休み以来だぞ! そんなすぐに育たない!」
一番近くで二人のキスを目撃した宇野原と北は。
中学時代に連れ込まれたクラブで目の当たりにした濃厚キスよりもあっさりしていて、内心、ほっとしていた。
そして彼らは同時に思う。
進路について何一つ決まっていないと言っていた友人だが。
この独占欲が強そうな年上の恋人と一緒にいる未来は否応なしに決定づけられているのだろうな、と。
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