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6-「弟が帰るまで死ぬほどご褒美やるよ」
羽布団と毛布にしっかり包まって眠りにつこうとした式部の耳にスマホの着信音が流れ込んできた。
慌てて手繰り寄せれば薄闇に鮮明に浮かび上がった液晶画面には隹川の名が。
「も、もしもし、隹川?」
『何だよ、その締まんねぇ声は、式部』
「今から寝るところだったから」
『は? まだ十一時前だぞ?』
「? もう十一時になるぞ?」
『お前やっぱ飽きねぇな、なぁ、明日ウチに泊まりこいよ』
「えっ?」
『弟は修学旅行、母親は今日から海外研修、誰もいねぇから』
「急に言われても」
『来い』
「だから急に言われても困る、っ、隹川っ、待っ……切れた……」
おかげで大慌てで準備をして家族に許可をもらい、急なお泊まりが決まってなかなか寝付けない一夜を式部は過ごした。
「別いーけど」
翌朝、自分より遅く教室にやってきた友達の北の元に駆け寄って「北の家に泊まるって家族には話した、勝手に名前を出してごめん」と神妙な面持ちで事後報告すれば大袈裟だと笑われた。
「実際、あの高校生んちに行くんだよな?」
「うん」
「前から思ってたんだけど、あのやたらかっけー高校生と式部って、どんな?」
「どんなって、どんな意味だ?」
「ただの友達?」
北に質問されて素直にぐっっっと詰まった式部の元にバタバタやってきたのは宇野原だった。
「北んちでお泊まりっ? 俺聞いてない! もしかしてハブられてる!?」
涙まで浮かべてしがみついてきた宇野原を「勘違いだ、宇野原」と冷静に慰める式部、質問の答えが有耶無耶になって、でもまぁタダの友達じゃないんだろうなぁと二人の仲に気づきかけている北、やってきた担任に早く席に着けと三人纏めて注意された。
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