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金曜日だった。
一端帰宅して私服に着替え、すでに準備していた荷物を持って式部が家を出ようとすれば母親に手土産代を渡された。
何を買っていこう。
隹川はよくステーキを食べてるから、生肉とか。
でも生肉なんてお土産、家に来たお客さんからもらったことない。
結局、パティスリーでシュークリームの詰め合わせを買った。
すでに日は落ちかけて夕闇が訪れようとしている五時過ぎの街並み。
ひんやりした風に身を震わせて家路を急ぐ人々の間を早足になって式部は進む。
お泊まり。
前に一度あるけれど、あの時は……。
『隹川ぁ……っもう帰らないと……っ』
『ん……ああ、もう真っ暗だな。あと2、3回したら帰してやるよ』
隹川に嘘をつかれて、な、何回も。
途中で気を失って、目が覚めたら、次の日になっていた。
隹川、また……何回もするつもりだろーか。
三連休のときみたいに、家に行ったら、すぐに……だろーか。
隹川の家に近づくにつれて式部の心臓はバクバクし始めた。
新築めいたマンションに到着し、インターホンで短いやりとりを交わしてオートロックを解除してもらい、エレベーターで上階へ向かう間、ずっと。
ひんやりした風に曝されて冷たかったはずの肌身がポカポカ火照るのを抑えられなかった……。
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