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「よぉ」 「っ……」 「なんでビビッてんだよ、俺がいて当たり前だろうが、別の奴でも出てくると思ったか」 「ち、違う……お邪魔します」 玄関先でスニーカーを脱ぐ前に式部はパティスリーの紙袋を隹川に手渡した。 「どーも、ご丁寧に、な」 Vネックのシャツにスリムストレートのデニム、三連休は半裸でいた隹川の部屋着姿に式部は無意識に目を奪われた。 「玄関で寝泊まりするつもりかよ」 慌ててスニーカーを脱いで隹川宅にお邪魔した。 父親は海外赴任中、学芸員の母親も西欧の美術館へ出張研修のため頻繁に家を空けるらしい。 ブラコンの弟は泣く泣く修学旅行へ、日曜日に帰り、月曜日は振替休日だという。 「式部」 隹川の匂いがする隹川宅にぼんやりしていた式部はどきっとした。 身長180前半、ピアスあり、どこからどう見ても素行が良さそうに見えない不敵な目つきが魅力的な隹川に間近に見下ろされて、心臓バクバクが加速した。 「ウチに何泊するつもりだよ」 式部はキョトン。 隹川は彼が肩から提げていた、ぱんっぱんなトートバッグをひょいっと取り上げた。 「これなら一週間は余裕じゃねぇの」 「そ、そんなことない」 「腹減ったな。何か食いに行くか」 トートバッグをソファに下ろし、背もたれに引っ掛けていたファーフードつきオリーブカラーのミリタリージャケットを悠然と羽織る。 ネイビーのダッフルコートを着込んだままでいた式部は、やっぱり、目を奪われてしまう。 テレビでよく見る服のCMみたいだ……。

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