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第5話 可笑しな共同生活、始まる
「―― 倫、用意は出来た?」
「うん、何時でも出られるよ」
「んじゃ、行こうか―― 倫って、ホント可愛いっ」
「は?」
”自分の好み”だとか
男に向かって真顔で”可愛い”だとか言って……
ジェイって、やっぱ変っ。
”ジェイ”とは宮藤くんの愛称。
年も近いし、ルームメイトなんだから、
よそよそしい呼び方も敬語もNGね?
って言われた。
「照れてるとこが余計に可愛い」
部屋のカギを閉めながら俺に言った。
「べ、別に照れてる訳じゃないけど、こんな俺に
可愛いなんて言葉は似合わないから」
「似合うから言ってるじゃん」
そんな風に玄関先で話していると、
このレジデンスの最上階フロアにもうひと部屋ある
コンドミニアムの玄関が開いて10才位の
線の細い女の子が出て来た。
「ハ~イ、ミーシャ。おいで?」
ジェイクが手を差し伸べる。
”ミーシャ”と 呼ばれた女の子は、
ジェイクに来たかと思ったら、
俺の足にまとわりついた。
「へ?」
「ハハ、倫、早速気に入られた」
ジェイクが笑うと、同じドアから若い男性が
顔を出した。
スラっとスタイルの良い、綺麗な金髪の男性。
『やぁ、ラジャ、こんにちわ』
ジェイは英語で挨拶し、軽くハグを交わした。
その男性は俺にも何か話しかけてきたけど……
わざわざ英会話教室に通ってまで習った英語は
全く役に立たない!
インド訛りの強いアメリカ英語は速すぎて
聞き取れなかった。
「彼、可愛い新人さん、初めましてよろしく。だってさ。
ほ~ら、可愛いって言われてるだろ?」
ラジャと呼ばれた男性がニッコリと微笑む。
お向かいさんはラジャとミーシャ、か ――
よし、覚えた。
『あ ―― こちらこそよろしく』
拙い英語で返事をした。
下からミーシャが俺の足をツンツンと小突く。
「??」
「抱っこして欲しいみたい」
俺はミーシャを抱っこしてあげた。
わぁ、軽いっ。
この子、パッと見は痩せてるんだけど。
意外に手(腕)や足の筋肉はしっかりしている。
もしかしたら、ダンサー?
って、思ったら……
国立文化藝術学院のバレエ特待生なんだって。
凄い!
*** *** ***
何日分かの食料の買い出しの為、
近所のスーパーへ向かう。
「ところで今夜は何が食いたい?」
「美味しいもんなら何でも」
昨夜、作ってくれた、ありあわせ野菜のポトフも
プレーンチーズのトマトソースピッツァも、
物凄く美味しかった。
「じゃ、大奮発して和洋折衷といきますかぁ」
「ジェイに任せる。ジェイは料理得意
なんだぁ?」
「得意って程じゃないけど、親があまりに
何もしない人だったから、必要に迫られてね」
「ふ~ん、けど、自炊出来るって凄いよ。
尊敬しちゃう」
徒歩10分程でスーパーへ到着。
ちょうどレジに立っていた、インド人店主・
Mrシャルマと挨拶を交わすジェイク。
『こんにちわ、Mrシャルマ』
『やぁ、ごきげんようジェイ。おやっ、そちらは
あまり見かけない顔だね……』
『倫太朗って言うの。―― 倫? こちらは
この店のご主人・Mrシャルマ』
『こんにちわ、倫太朗といいます。よろしく』
『こちらこそよろしく』
店内は日本で言うコンビニみたいな感じだけど、
生鮮食品も陳列してあるタイプのお店だ。
「店内になくても大抵の物なら取り寄せてもらえる
から」
「ふ~ん……」
「俺なんかこの間、梅干し頼んじゃったぁ」
「へぇ~」
ジェイクは1人暮らしも長いせいか?
さすがに手馴れていて、野菜・肉・魚、等、
新鮮な物をより分けてショッピングカートに
入れていっている。
「ところで倫は何か嫌いな物とか食べられない物
とかある?」
「ない」
「うん、いい事だ……材料はこんなもんか、あとは ――
ジュースかな?」
「うん」
お客用にビールも4ダース程カートに入れて。
ジェイは俺と自分用に緑茶ファミリーサイズと
今夜の夕食に招待したミーシャ用に
オレンジジュースを買った。
レジでの精算は2人で割り勘。
『ありがとうございましたぁ、またどうぞ~』
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