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第8話  前途多難

  研修開始から約半年経ったという事で、   それまでお世話になっていた内科から配置転換。   大吾先生を長とするその部署は彼が日本から赴任して来た後、   新設されたセクションで。   難易度の高いオペにも常時対応出来るよう、   各診療科から選りすぐりの医師がヘッドハントされ   スペシャルチームが結成されたそう。      メンバーは、普段はそれぞれ自分の診療科で業務に   就いている。 「―― 一応メンバーは今のところおれを含めて8名。  全員実務経験も豊富な連中だから、分からない事は  何でも遠慮なく聞け」 「はい」 「今のうち言っておくが、新人だって甘えはここじゃ一切  通用しない。手加減もしねぇからそのつもりで」 「はい、望むところです」 「ほ~う、ヤる気満々だな。いい事だ」  ***  *** 『――ちょっとみんな、そのままで注目してくれ』   ボスのひと声で医局フロアのあちこちに散らばり   始業準備をしていたメンバー達が一斉にボスと   俺の方を注目した。 『今日からメンバーに入る桐沢だ、使い物になるまで  しばらく目ぇかけてやってくれ』 『桐沢倫太朗です。宜しくお願いします』   ペコリ、頭を下げた。 『――あぁ、アランとは朝会ってるよな。うちのチーフで  専門は小児外科だ』 『よろしく、頑張ってね』   銀縁メガネをかけた切れ長の瞳は、パッと見冷たい   印象を与えがちだけど、柔らかく微笑んだ笑顔は   とても人懐っこくて温かだった。   やばっ、何か緊張してきた……。 『よ、宜しくお願いします』 『その隣は外科医のニック、次がお前と同じ産婦人科・  デビー、チームの最年少で日本への留学経験もある』 『よろしくね、倫』 『こちらこそ宜しく』 『その隣がメンバーの唯一の臨床心理士・寺沢要、専門は  思春期心療内科。あぁ、因みに彼、見てくれはこの通り  純日本人だが日本語は全く話せん』 『生まれも育ちもアメリカなんだ』 『次がサムとコニー、看護師だ』 『よろしく倫、仲良くやっていこうね』 『こちらこそ宜しくお願いし――』 『遅いぞっ、マーズ。てめぇ今月に入って何度目だ?』 『(う)るっせぇな、小言はアタマに響くんだよっ』   と、ボスの愚痴と渋顔も素知らぬふりで、   もう1人のメンバーが現れた。   金髪のポニーテールが印象的な男子メンバー。 『夜遊びも結構だが翌日の仕事に支障が出るような  無茶は慎め』   そのマーズと呼ばれたメンバーは不快さを隠そう   ともせず、俺を怪訝に見た。 『何? お前――』 『新メンバーの桐沢だ』   初対面、早々そのマーズから嫌味の   カウンターパンチを食らわせられる。 『あぁ ―― ボスのお気に、ね……』 「!! お気に ――?」   ピン、ポン、パン、ポ~ン ――――    ”Drカガミ、1階受付にお客様がお見えです――”   と、ボスを呼び出す院内アナの声。 『じゃ、デビー、倫にひと通りの日常業務教えといて  くれるかな』   と、デビーに俺を託してボスは去って行った。 『―― なぁ、ところでお前さぁ、自分の体でボスを  タラシ込んだってマジ?』    鼓動がドクンと、跳ね上がる。 『『マーズッ!!』』 『いやぁ、気に触ったらすまんな。でもよ、これから  しばらくは一緒に働く訳だし、疑問は小さいうちに  解決しといた方が良くないか? で、ホントのとこ  どうなのさ? 前のボスと寝たのか?』 『マーズッ、いくら何でもプライベートに立ち入り過ぎだ。  倫太朗に謝れ』 『オイ、新入り、お前に聞いてんだよ。何とか言え』 『倫、あんな質問答えなくてもいいからね』    俺はさっきまで伏目がちにしていた視線を上げ、    真っ直ぐマーズを見返した。 『ええ、寝ました。それが、どうかしましたか?』    その言葉で皆は静まり返り。    まさか、俺が肯定するとは思っていなかった    マーズは絶句した。 『けど、タラシ込んではいません。俺達は純粋に  愛し合っていましたから……デビー、仕事に  かかりましょうか?』 『あ、あぁ ――』  

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