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第15話

  (From ~ 倫太朗)   11月のカレンダーをめくって破り、    ”あぁ ――、     今年も残すとこあと数週間かぁ……”   と、感慨に耽っていると、   夕食の用意を終えたジェイに呼ばれた。 「りん~、出来たよ。食べよー」 「はぁぃ」   本日のメニューは、ブリ照りとほうれん草サラダ、   キュウリと白菜の一夜漬け、だし巻き卵、それに、   豆腐とわかめのお味噌汁です。   ジェイも和食党のおかげで、遠く日本から離れても   こうして毎日美味しい食事を食べられる。   時々ここがニューヨークだって事すら、   忘れてしまう時もある。 「「―― では、いっただきま~す」」 「年末年始は日本に帰るのか?」   ジェイに聞かれた。 「多分……帰らないと思う。ジェイは?」 「俺は帰る。智が待ってるし、親父とも話す」 「そう……」   ジェイの言った ”智” とは、ジェイが   こちらへ来る原因のひとつを作った元カレ。   ひょんな偶然で大学院のガーデンパーティーで   その元カレと14年ぶりに再会し、和解。   それからまた付き合い始めたんだそう。 「……各務柊二か?」 「え?」   ジェイは俺を見ている。 「あいつが居るから、帰らないのか?」   俺は箸を置いた。 「ん、会ってしまいそうで怖い……」 「日本は広いぜ? 会う確率は低いだろ?」 「……それが会うんだよ。  不思議なくらいバッタリとね」   笑いながら、神保町で会った事、   その日に神田明神の祭りでも鉢合わせて、   柊二が俺の昔のセフレに刺されてしまった事を   話した。 「そんなだから、絶対会わないという保証がない……」 「そうか…」   話していたら、ジェイの携帯に着信が入った。 「智だ」   嬉しそうに携帯を持って自室に向かう。   俺はまた、夕飯を食い始めた。   1人旅も良いなあ……カナダに行ってみようか……   早々に食事を切り上げてパソコンを起ち上げる。   壁紙は、柊二が車に乗っている姿が映っている   写真 ――。   俺は独り笑いながらタバコに火をつけて、   カナダの観光案内のホームページを   見ようとしたとき、   メールが2通受信しているのに気付いた。   1通目は秀英会病院からのメールだった。   隔週で送っているレポートの総評と、   今後進めていく課題について   **教授と直接話せとの内容だった。   しかも、交通費は支給。   2通目は父と離婚後、郷里の富良野に引っ越した   母から。   その内容は、簡単明瞭 ――    ” ハハキトク スグ カエレ ”    呑気な俺もさすがに驚いてすぐ母へ連絡を   取ろうとして、ハタと考えた ――、   今ほど通信環境が良くなかった昔ならイザ知らず、   急を要する用件なら電話の方がよっぽど速いハズ。   因みに母とは、この10年、   音信不通の状態が続いている。   そんな母からの物騒なメール。   コレは何かあるなぁ……と、思った。   ジェイには、その辺の事情も素直に話したら ――、   『ま、大学に入って以来1度も帰ってないん    だったら、顔、見せにくらい帰ってあげなよ。    おふくろさんも寂しいのかも知れないよ』   って、言ってくれた。   あの母が ”寂しがる” 等とは、   到底思えないが……。   かくして、年末から年始にかけて俺は母の郷里・   北海道へ帰省し、ジェイも10年ぶりに帰国する事   になった。

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