97 / 174

置いくれてありがとうございます《1》

「どこ行くの?」 初瑪はさっきから何も俺に言わずにただ歩いている。行く場所は決まってそうな歩き方をしている。 「どこがいい?」 「え、決まってないの?」 「りぃが行きたいところがあるなら、そっちを行こうってだけだ。さすがに無計画ではない」 「んー、あまりに急すぎて特にはないな」 「思いついたのは今日の朝だからな」 朝って……朝思いついて誘うなよ。 「で、どこに行くの?」 「家」 「は?家?家なら俺っ家からでも行けたじゃん!」 「もう着くしな」 辺りをきょろきょろ見回すと、何だか見慣れた場所にいることがわかった。 あれ? この先にあるのって俺の大好きな場所だよな? 暇さえあればというほど行ってて、少なくとも月1回は行く場所。まだ今月は行ってないけど。 「ねぇ、初瑪この先って」 「おそらく、りぃの思っている通りだろうな。ほら、着いたぞ」 大型ビルやオシャレなお店などに軒を連ねるその建物は、どの建物よりも落ち着いた雰囲気を帯び、だけどその存在感をありのままに押し出している。 …………あれ?? 俺の思った通りだけど……え? 「初瑪。さっきどこ行くの?って聞いたら……家って言ったよな?」 「あぁ」 「目的地はあってんの?ほんとにここ?」 「すぐ目の前が入口だろう」 どうやら間違いではないらしい。 そこは俺の大好きな場所。近頃、急成長を成し遂げている大型店舗。 「俺の家系がやっている書店─“楠堂”だ」 本屋だった。

ともだちにシェアしよう!