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置いくれてありがとうございます《1》
「どこ行くの?」
初瑪はさっきから何も俺に言わずにただ歩いている。行く場所は決まってそうな歩き方をしている。
「どこがいい?」
「え、決まってないの?」
「りぃが行きたいところがあるなら、そっちを行こうってだけだ。さすがに無計画ではない」
「んー、あまりに急すぎて特にはないな」
「思いついたのは今日の朝だからな」
朝って……朝思いついて誘うなよ。
「で、どこに行くの?」
「家」
「は?家?家なら俺っ家からでも行けたじゃん!」
「もう着くしな」
辺りをきょろきょろ見回すと、何だか見慣れた場所にいることがわかった。
あれ?
この先にあるのって俺の大好きな場所だよな?
暇さえあればというほど行ってて、少なくとも月1回は行く場所。まだ今月は行ってないけど。
「ねぇ、初瑪この先って」
「おそらく、りぃの思っている通りだろうな。ほら、着いたぞ」
大型ビルやオシャレなお店などに軒を連ねるその建物は、どの建物よりも落ち着いた雰囲気を帯び、だけどその存在感をありのままに押し出している。
…………あれ??
俺の思った通りだけど……え?
「初瑪。さっきどこ行くの?って聞いたら……家って言ったよな?」
「あぁ」
「目的地はあってんの?ほんとにここ?」
「すぐ目の前が入口だろう」
どうやら間違いではないらしい。
そこは俺の大好きな場所。近頃、急成長を成し遂げている大型店舗。
「俺の家系がやっている書店─“楠堂”だ」
本屋だった。
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