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初めまして灯輝くん《3》
「ねぇねぇ、灯輝!開けていい?開けていい?」
とうとう、子供は我慢出来なくなったようだ。
ショーケースに並ぶケーキを選ぶ時よりもキラキラした目で、箱を見つめる碧。よほど楽しみらしい。
「ゆっくり上から開けてくださいね」
「うわぁーい!」
碧がケーキの箱を開けると、中には少し小さめのホールケーキが入っていた。
「わぁ〜♪美味しそう!」
単純なイチゴのケーキだけど、めっちゃ美味しそうだった。生クリームもイチゴも、碧の目みたいに輝いて見える。て言うか、これほんとに手づくり?って感じ。すごい、さすがオカン。
「ハッピーバースデー歌いますか?」
そんなみんなの目を釘付けにしている、ケーキを作った灯輝が尋ねる。
言い方が可愛い…………!!
「ほら、碧!歌うから静かに…って無理だな」
碧は顔に『早く食べたい早く食べたい』と書いてある。そんな顔で俺を見るな。
「あ〜灯輝。悪いんだけど、もうケーキ切り分けてやって。碧が食べたすぎて限界っぽい」
「わかりました。切り分けるっスね」
何故かバックから小型のナイフが出てきて驚いていると「切り分けるから持ってきたんスよ」と言われた。納得。そうじゃなかったら、むしろ怖い。
「前原」
「あ、はい。何スか?」
「俺の分は相澤にやれ。何も用意してないからな。せめてものプレゼント代わりだ」
「わかりました」
初瑪がそう言う。
ただ単に灯輝の作ったケーキが、食べたくなかったってわけじゃないはずなんだよな。甘いものは苦手じゃないし、むしろ好きなほうだよな、初瑪って?
……ほら、どこか優しいんだ初瑪は。
そう思って初瑪を見ると「かまって欲しいのか?」といたずらっぽく言われる。
1週間ぶりに見たその顔は何にも変わってなかった。
でも、俺はそんな言葉にすぐさま「なわけないだろ!」と返すのは当然だった。
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