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認めた好き《2》

「りぃ」 俺の体を抱きしめ、耳元で初瑪が名前を呼ぶ。 「……んっ」 たったそれだけのことで安心してしまって、溜まっていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。 怖かった。 集団で喧嘩売られるよりも、体が自由にならないまま殴られる続けるよりも、こんなに体を狙われることが怖いなんて思わなかった。 あのまま初瑪が来なかったらどうなってたんだろうって想像するだけで身が震える。 「俺がいるから大丈夫だ。安心しろ」 嬉しいけどあまり耳元で喋らないでほしい。 勝手に体が反応する。 明らかに初瑪のせいで症状が悪化してるから! さっき認めた “ 好き ” は、こんなにもめんどくさい。 「……あんま、耳、んっ、元で……ぁ、喋ん、な!」 「……あぁ、薬まだ残っているのか」 「わかって、んなら……ぁん、黙れ…よ!」 初瑪は指先で俺の涙を拭うと、俺の顔をのぞき込んでくる。まともに初瑪の顔を見る自信なんてないから、必死に下を向く。 無理っ無理っ無理っ、見れない無理だよ! 「何故、俺の顔を見ようとしない」 「……何でも、いいじゃんか……っ」 「良くない」 初瑪はそのまま俺の耳に甘噛みした。 「んひゃっあッ……!」 おいコラテメェ!!! いきなり何するんだよ!言ったじゃんか!!! まだ媚薬の効果残ってんだよ!!なぁ!!! 媚薬+ “ 好き ” の効果で、いつもより感度がやばいんですよ!! わかってくれよ!!!! ……って、好きってことはバレちゃダメか。 「りぃ」 名前を呼ばれて、ついそのまま顔を上げると初瑪の顔がすぐ近くにあって、思わず目を閉じる。 「りぃ」 もう一度名前を呼ばれ、そっとキスをされた。 好きと認めてからのこのキスは、俺にとっては嬉しいもので。でも、それ以上に泣きたくなりそうなキスだった。 だって、初瑪は……俺のことを好きなんかじゃない。ただの興味対象としか見てないから。 「初瑪」 好きってわかったって叶わないことはわかってるから、それでも俺に好きと認めさせた世界は残酷だ。 まだ媚薬の名残を残しながら、安堵と疲労により、ゆっくりと意識が眠りに落ちていく。 「……ありがとう」 さっき認めた“ 好き ”はこんなにも悲しいのか。

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