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アイツと《1》side初瑪

「篠宮くん、可愛い声で啼くよね。もっと虐めたくなるよ……」 俺が録音を始めたのはりぃの家に着いてすぐ、アイツのこの言葉からだ。 ドア越しに漏れるりぃの悲しい声。 今すぐ助けに行きたい。 扉を壊して、今すぐ抱きしめてやりたい。 そんな感情と共にふつふつと沸き上がる怒り。 「まぁ、そんなにじっくり遊ぶほど時間がないんだよね。この薬、30分しか効き目ないからさー。それまでに快楽に飲み込ませれたら効き目なんてきれても大丈夫なんだけどね?」 コイツが予定より早く来たのは俺が来ることを予想してだろう。効き目が短い分、邪魔されては困るから。……少し早めに来てよかった。 「うーん、そんなに抵抗されるとなぁ……あ、そうだ!篠宮くん好きな人とかいないの?」 何故か、そんなことをりぃに聞き出した。 「ふーん、その反応じゃいるのかな?」 ……いるのか。 りぃだって年頃の高校生だ。好きな人くらいいてもおかしくはない。それでも、俺はその事実に動揺している。りぃが他の誰かの者になるのが、こんなにも俺は嫌なのか……と。 「んっ、嫌だ……ッ、やめて、んんっ…ぁ」 りぃの抵抗する声。 助けに行きたいがある程度の証拠を掴まないと高校生の話など、警察はまともに聞いてくれないだろう。 ましてや、同じ男に襲われました……なんて。 「ねぇ、篠宮くん……君の好きな人は誰?」 そう声がした。 「キスしようか篠宮くん」 「……ッ!」 ただ、拳を握って立つことしか出来ない自分に苛立ちと無念さを覚える。 今そこで、りぃが助けを求めているのに。 助けてと声が言っているのに。 「嫌だ…ッ!…キスは、んっ……好きな、人、っ、としか、んぁ……したく、ねぇ!」 ……キスは好きな人とするもの、か。 その言葉に胸が痛む。 何度も、俺のキスを受け入れたことは違うんだろう?好きでも何でもない。 俺の言葉は “ 絶対 ” だから。 俺とのキスは、好きの気持ちも何にもない。りぃにとっては秘密をバラされたくないから俺に従う……その気持ちだけ。 俺にとって、キスはただの手段だが、あんなにキスをしたい…と思った相手はいなかったよ、りぃ。 「俺は篠宮くんのことが好きだよ」 アイツの確信的な言葉。 ここまで録音できれば大丈夫だろう。 やっと、助けに行ける。 「ねぇ、篠宮くんは誰が好きなの?」 ───なぁ、りぃ。 「……初瑪」 ドアを開ける少し前に俺を呼ぶ小さな声がした。 「りぃから離れろ!!!!!」 りぃが好きだ。

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