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“こころ”があるから《1》

「……はっ…ぁ」 混じる吐息。 絡まる舌。 溢れる唾液。 すべてが甘く、ほろ苦い。 そっと唇を離し俺を見る初瑪の目は、どこか悲しげで、色っぽい。 わからなかった。 無理って言われてからすぐキスされた意味が。 ……でも、きっと意味なんてないんだ。 初瑪にとって、キスはただの手段。 今回のキスは手段じゃないとしても、ただの優しさであるにきまっていて。 あんなふうに襲われそうになったばっかの俺の気持ちを気にして、俺が言ったことをしてくれてるだけに決まっているから。 こんな時に優しくなるなよな……あんなに優しいキスなんて…しないでほしかった。 望んだのは俺自身なのに。 いざされれば、泣きそうになる。 涙を必死にこらえて初瑪を見ると、初瑪はそっと体を落としていき、俺を抱きしめた。 「……なっ、何っ」 もうやめてほしかった。 抱きしめないで。離してよ。 優しさなんて、いらない。 もう、この気持ちが苦しくて仕方がないんだよ。 「りぃ、りぃ」 ぎゅっと、力を込めて抱きしめられる。 「りぃ、りぃ」 初瑪の顔を見れないから、何を考えてるのかわからない。ただ何度も俺を呼ぶだけで、何も言わない。 「初瑪?」 その声があまりにも悲しさを含むから。 俺まで泣きそうになる思いが湧き出てしまう。  「………っ」 起き上がって、俺のおでこにチュッとキスを落とすと、初瑪は押し倒した俺を座らせ、そっと自分はベッドから降りる。 そして、ドアノブに手をかけた。 「どこ行くんだよ……?」 何となくわかってた。 「帰る」 ほら、やっぱり。

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