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月が綺麗《1》side初瑪
「……はっ…ぁ」
吐息も舌も唾液も何もかも。
りぃの身体はすべてが甘く、酔わせる。
そっと唇を離しりぃを見下ろせば、その色めいた顔を見て…また間違えてしまった、と思った。
わからなかった。
どうしてたかがキスごときで本気になるのか。
……だが、きっと意味なんてないんだろう。
りぃ相手では何もかも、理由なんて意味なんていらなくなってしまうのだから。
今回のキスはりぃを怖がらせてしまったのではないか。そればかりが頭をよぎる。
……俺らしくない。
あの雑魚に襲われそうになったばかりの、りぃの気持ちを考えればよかったのだろうか。それでも今のようにりぃの望みを受け入れて、キスしてやったほうが良かったのか。
俺らしくなく、悩んでいる……
自分から言わせたはずだ。何も聞かずにキスしてやったって、よかったはずだ。
なのに、俺はりぃの口から言わせることを選んだ。
“キスは好きな人とする”
その言葉が乱す。
俺はそっと体を落としていき、そのままりぃを抱きしめた。
「……なっ、何っ」
怯えるようにも聞こえる声。
小さく震える身体。
それでも俺を突き飛ばさない優しさ。
もう、この気持ちが苦しくて仕方がない。
「りぃ、りぃ」
力を込めて抱きしめ、愛しい名前を呼ぶ。
「りぃ、りぃ」
もうお前を苦しめたくない。
辛い思いなんて、悲しい顔なんてさせたくない。
例えそれを俺がさせてないとしても、だ。
「初瑪?」
自分の中に閉じ込めて、お前を奪ってしまう前に。俺が俺らしくなくなる前に。
離れたほうがいいのだろう。
「………っ」
起き上がり、りぃの額にチュッとキスを落とすと、押し倒したりぃを座らせ、そっとベッドから降りる。
そして、ドアノブに手をかけた。
「どこ行くんだよ……?」
引き止めるな。
「帰る」
まだ、お前は俺から逃げられるうちに。
今のうちに離れた方がいいのだ。
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