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月が綺麗《3》side初瑪

「だーかーらー!!!」 ほんのわずかでも期待してしまいそうになる。 「好きって言ってんだよ!!!」 頭を殴られたような衝撃と、喜び。 「りぃ……」 そして虚しさ。 好きと言われても、それはきっと幻覚だ。 「……悪かった。俺が勘違いさせたな。恐怖などの危機感を刷り込まれて、逆らえなくなって、それを優しさで埋めて……そうやって俺がりぃに“俺は恋してる”と、錯覚させるようなことしてしまったんだろう……だから、りぃの気持ちは──」 本当の気持ちなど、俺は得ることが出来るわけない。 「あのな!!それで隠せてると思ってんの?今日の初瑪めずらしく感情タダ漏れなのわかってんの?」 りぃが俺に必死に訴えかける。 ……感情ダダ漏れ、か。 そしてりぃは真っ直ぐな穢のない瞳を濡らしながら、俺に言い放った。 「例え錯覚とか刷り込みだとしても、俺は好きって言ってんだよ!!初瑪に会ってから、ずっと初瑪の事ばっか考えちまうんだよ!!意地悪だし!変態だし!俺様だし!キスしかしねぇし!!!」 ほら… 「それでもいいかなって思っちゃったんだよ!! 好きな人誰?って聞かれて、すぐに初瑪の顔思い浮かんじゃうくらい俺は好きなの!!!ほんとは優しいのだって知ってるし、いいヤツってことも知ってる!だから俺は初瑪が好ッ────」 身体が勝手に動いていた。 2人の距離を埋め一つになれ、と言うかのように。愛しい温もりを感じろ、と言うかのように。 ────そっと触れるだけの、キスで。 「りぃ、自分がなに言ってるのかわかっているのか?」 「わっ、わかってるよ!!」 こんなにも心の底から……嬉しいと感じたのは何年ぶりか。 「りぃの“好き”はどういう意味の好きだ?」 俺はそこまで鈍くない。 あれだけ言われればもう全てわかる。 でも、より確信が欲しかった。 「───月が綺麗ですね」 そう言うとりぃは、背伸びしてチュッと俺にキスをする。 ッ…! 想像なんてしてなかった現状。それでも…… 「…って、意味の“好き”」 目に涙溜めたまま、笑顔を見せようとしてくれるりぃを見てしまえば 「───ずっと前から月は綺麗だろ」 そう答えてやるしかないのは必然で。 そのままぎゅっと抱きしめると、りぃ、も抱きしめ返してくるので、より力を込めて抱きしめる。 「俺もりぃが好きだ」 もう逃がすことは出来なかった。

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