170 / 174
初めての、好き《1》
幸せで死ねるって、今のことを言うのかもしれない。
玄関先で何をしているのだろう。
しかも、こんな夜に。
冷たく暗い廊下が、こんなにもあったかい場所に感じられる。
抱きしめられたまま、ただただ涙を流す。
悲しくない。嬉しくて嬉しくて……幸せすぎて涙が止まらない。
俺が今まで恋だと思っていたものは、何だったんだろう。恋したり付き合ったり…そんなことは数回してきたけど違う。
こんなにも嬉しいって思ったことなかった。
幸せって思ったことなかった。
「……馬鹿。泣きすぎだろう」
「……誰のせいで…ッ……泣いてると思ってん、だよ」
素直になれない俺のほんの少しの本音をこめて、ギュッとして、顔を隠す。そんな俺を見て初瑪はフッと声に出して笑うと、いつもの変わらない声のトーンで話す。
「嬉しくて泣いているのなら、俺のせいでも気分がいいな」
「ばーか」
「そんな馬鹿を好きになったのはりぃだろ?」
「……ばーか」
何だか恥ずかしくなって、うずめた顔を動かす。
「りぃ、あんま可愛いことするな」
「はっ?!」
可愛いことって何?!えっ、なんかしたの俺?!
顔をあげて訴えようとしたら、待ってましたとでも言うように初瑪が俺の顔を固定し、近づいてくる。
あ、完全にやらかした……!
これ絶対キスされるパターンだ!!知ってる!
そう、俺は学んだ!!!
まぁ、いくら学んだと言っても、ドキドキすることには微塵も変わりない。
ぎゅっと目をつぶって待機する。
初瑪が俺に触れてる部分がやけに熱いし、さっきから心臓の音もうるさい。
……なのに、なかなかキスが来ない。
うっすらと目をあければ、初瑪がにまにま笑みを浮かべていた。
まっ。
「フッ…期待したか?」
作戦にまんまとハマった俺に初瑪が言う。
「期待したよ!あぁ、しましたとも!!」
こんなイジワルな感じじゃなくて、甘い雰囲気になるはずなのに、それでもこうやって何も変わらない初瑪に何故か安心する。
俺の好きな初瑪は、こういうヤツだ…って。
「今日はやけに素直だな、りぃ」
いつも素直じゃなくて悪かったですね!!!
って、言いたくなるけど、素直じゃないのは事実だと思うから、なにも言わずにキッと目を見る。
でもそのせいで、まじまじ顔を見ることになったから自爆した。ちゃんと見てなかったけど、めずらしく感情ダダ漏れの顔の初瑪から、恥ずかしいくらいに伝わってくる。
お、おれ、俺への……好きって、感じが(?)
「りぃ」
「…へっ、あっ、何?!」
それに気づいてじっと初瑪のこと見てたから、自分の世界に入ってて、呼ばれたことに気づくのに遅れてしまった。
俺が慌てて返事をすれば、優しい笑みを向けて、近づいてくる。
うぅ〜…!
何が言いたいってドキドキが止まらない。
いや、マジで止まらない。
告白効果か、何かわかんないけど。
好きが溢れて。
ともだちにシェアしよう!