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それぞれの登校《2》side初瑪
「んじゃ、またな」
「あぁ」
りぃの家から自宅に学校に必用な荷物を取りに行くために、りぃより先に家を出る。
階段を下り、昨日ここまで来た道を所々思い出しながら、呟いてみる。
「りぃ」
初対面のあまり話したことがないヤツを…いや、他人をあだ名的なもので呼んだことがないからか、少し嬉しいような気もしていた。
半分はもちろんからかうためだがな。
正直ほんといいものを見つけた気がする。
何度思っただろう。
それにアイツ、りぃは人間としてもいいやつではないだろうか?
……今のところの現状では。
たった一晩一緒にいただけでもわかることがある。あきらかに怪しい俺(自分でも思う)を泊めてくれ、その上わざわざ夕食のおにぎりと朝ごはんまで作ってくれた。
…………そんなやつ初めてだった。
まぁ、俺が人の家に泊まることさえ滅多にないから初めてっていうのは、当たり前っていったら当たり前なのだろう。
じゃあ、そこの部分だけ前言撤回だな。
俺の家とりぃの家は歩いて10分もしない距離にあるため、すぐに着いた。
俺の住んでいるマンションはこの辺ではそこそこ有名な建物だ。そのマンションの5階の突き当たりの部屋に俺は一人で住んでいる。
学生が一人で住むには贅沢な部類だ。
俺の家は、全国に大規模な店舗を出店している大型書店だ。
その名も楠堂
家の名前そのままの書店名になっている。
楠堂は新本だけではなく、古本屋として営んでる書店や楠出版としても存在してる。
また、会社として他の出版社と協力し新人作家の最初の一歩を手助けするために、Twitterやホームページ、Webサイトで注目を集めている小説家や漫画家ではない一般人に公に出る機会を与えている。出版社からこちらに新人作家を売り込んで来る場合もある。
そういう場合は、その出版社とウチで利益を分け合うか、またはその売り込まれた新人作家がウチの会社に身を置くと言えばそうなることもある。
大概は元の恩もあるのか、利益を分け合う形になることが多い。
そういえばりぃも新人作家なのか…
うまくいけば完全にウチに引き込めるかもしれない。男子高校生という肩書きをなかなかだ。
「時間が……」
時計を見ると予定していた出発時刻がもうそろそろに近づいていたので、授業に必要なものだけを持っていた鞄に詰め込んだ。
幸い今日は昨日が初日にも関わらず、ほぼ1日だったためか、午前中で授業が終わるので必要なものがあまりなかった。
俺の部屋は自分でいうのもなんだが、片付いているので大体すぐにほしいものは見つかる。
昨日のりぃの汚部屋…もとい仕事部屋を見たからかよりいっそう片付いているように見える。
後の残りの着替えやその他必要な荷物は、放課後にでも取りに来ればいいだろう。
そう思い俺は予定通りの時刻でマンションをあとにすることができた。
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