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佐々木さんと《1》
『もしもし、篠宮くん!俺です、佐々木です』
電話の相手は俺の小説を担当している佐々木 さんだった。佐々木さんは臨時の担当者で、ほんとの俺の担当者は病気により入院してて、退院してもすぐは復帰できないから…ということで佐々木さんは臨時なのだ。
「こんにちは、佐々木さん!いつもお世話になってます。今日はどうしたんスか?」
あった時に敬語で話しかけたら「そんな年離れてないんだから別に敬語じゃなくていいよ」と言われたので少しだけ砕けた口調で話している。
『いやぁ、ちょっと原稿の事で聞きたい事があってね。ついでに篠宮くんの進級祝もしてあげたいから今から何処かで会えないかな?』
「ホントっすか!ありがとうございます。えっと、今からですよね。ちょっと時間かかるけどいいっスか?今、駅前に友達といて」
『え、じゃあ遊んでるなら急ぎじゃないし、また今度でもいいよ!』
「あ、そろそろ帰るところなんスよ。だから大丈夫です!」
『そっか、ありがとね。えっと、駅前にいるんだっけ?じゃあ、近くにあるハンバーガー屋に集合でいいかな?俺も今近くなんだ』
「はい、それでいいっス!なるべく早く行きますね!」
『うん。待ってるね』
そう言って電話を切ったところで丁度会計を済ました碧たちが来てお開きになった。
待たせちゃ悪いから早く行かなきゃな!
「篠宮くーん!こっち、こっち」
「あっ!佐々木さん!」
走っていったが、車で来たであろう佐々木さんより早くつくことが出来なかった。そりゃ、徒歩が車に敵うわけないよな。勝ったらとんだ人類の進歩か、車の劇的な技術衰退だわ。
どっちも有り得ねぇな。
手招きされた席に慌てて行き、「失礼します」と言って佐々木の向かいに座った。背負っていたリュックを隣に置き、中から持ち歩いているノーパソをいつもの様にだそうとすると「篠宮くん。今日は出さなくても大丈夫だよ」と言われたので、しまう。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「いえ、大丈夫っスよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でね、今日の本題なんだけど…この原稿のここの部分なんだけどね…」
「ん、ここっスか?」
「そうそう。これ、誤字じゃないよね?」
「あっ、誤字じゃないっスよ。わざとです!」
「そっか、だよね!良かった…篠宮くんは独特な書き方するからさー、誤字っぽくてもそうじゃない場合ありそうだから聞いてよかったー」
俺は話の都合上、よく当て字とかわざと漢字を間違えたりして小説を書くから、佐々木さんも誤字か誤字じゃないか見分けるのが大変なんだろうな。
すみません佐々木さん。俺が小説家で。
もっと楽な人の担当になりたかったでしょうね。なんかすみません……
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