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第3話

 昨晩と同じ薄汚い路地裏。ハルキはポケットに手を突っ込みながら男の前を歩いていた。昨日と同じ失敗を繰り返さないために、金は前払いで貰ってある。男は黙って後ろを付いてきていた。  この先にハルキの住んでいるマンションがある。ケガをしても自力で家に帰れるように、いつもこのあたりまで客を連れてきていた。部屋に呼ぶなんて冗談じゃないし、外ならせいぜいごみのように捨てる事しかできないだろう。  忌まわしいケイの事務所を通り過ぎようとして、急に男が興奮した声を上げた。 「なあ、もういいだろ」  壁に強く押し付けられて、シャツをたくし上げられる。がたがたと震える指で、ハルキの体を撫でまわした。  何でここなんだよ。  舌打ちして、精一杯の媚を含んだ声を出す。 「ここはまずいって。もうちょっと先でもいいだろ」 「うるさい! お前に意見を言う権利があるとでも思っているのか!?」  激昂した男にハルキは頬を殴られた。熱と痛み。唇の端が切れたようだ。もう一度振り上げられる拳を受けて、歯を食いしばる。  こいつ、クスリでもやってるのか。  自制の効かない男は優位に立とうと必死だ。別にどこでもいいのだが、よりによって何故ここなのか。 頭に血が上ってしまった男は、ハルキの下着を下ろし、強引に分け入ってきた。苦痛に顔を歪め、熱を持った痛みに耐える。昨晩の客と同じように、強い力で首を絞められて、ハルキの頭は真っ白になった。  喉をつぶされそうな絞められ方だが、もうどうでもいい。それよりもこのまま恍惚としていたい。熱を帯びた下半身に触れようと手を伸ばした。  と、ぼやけた視界に、ビールケースを振り上げているケイの姿が入った。  ああ、やっぱり。  必死に腰を振っている男は、全く気付かずに嬌声を上げている。ビールケースで横ざまに殴られ、吹っ飛んでいった。  ひゅっと音がして空気が一気に喉を通っていった。ハルキは盛大にむせながら、首を押さえる。ケイがもう一度男に向かってビールケースを振り上げると、座り込んだまま後じさり、悲鳴を上げて逃げて行った。  咳がおさまると、ハルキは思い切り舌打ちした。 「二晩連続ですか」  まだ声を出せないハルキの腕を掴み、非常階段を上ろうとする。ハルキは振りほどこうとするが叶わない。引きずられるように事務所に押し込まれる。殺風景な部屋は昨日と変わらず、ケイは後ろ手にドアのカギを閉めた。 ハルキをベッドに座らせると、氷をビニール袋に入れて、氷嚢を作っている。ハルキはベッドから立とうとしたが、よろめいてしまった。ケイに押し付けられた氷の冷たさが頬にしみる。口の端を消毒されて、痛みにびくりと身を引いた。  あきれたような、ケイの表情。  ハルキは下を向いて、舌打ちした。 「痛みを喜んでいる様には見えませんが」 「うるせえな。マゾだろうが何だろうが、痛いもんは痛いんだよ」  ぼそりと呟く声が弱々しい。醜態をさらしてしまったと、ハルキは頬が紅潮するのを感じた。  ケイが事務机の引き出しから何かを取り出して戻ってくる。強引に腕を引っ張り上げられて、ガチャリと音がした。手首にひんやりとした感触。そちらを見ると、ベッドのパイプに手錠でつながれていた。理解できない表情でケイを見上げると、彼は薄く笑った。 「私が家まであなたを送るのと、警察を呼ばれるのと、どちらがいいですか?」  ハルキは大きく舌打ちをした。

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