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第5話

 ハルキは目の前の空き缶を蹴り飛ばし、ペットボトルを踏みつけた。イライラしながら、路地裏に入って行く。いつも通り薄暗い。それがより一層ハルキの心を荒ませた。  ここ数日食いはぐれている。ケイが殺しかけた男が大げさに騒ぎ立てたせいで、ハルキは嫌厭されていた。大きく舌打ちし、ポリバケツを蹴り飛ばす。散乱したごみを踏みつけながら、仕方なくマンションに帰っているところだった。  ケイの事務所の前を通る。誰かを思い切り殴りつけてやりたい気分だ。 「今日も一人ですか?」  頭上で声がして、ハルキは非常階段を見上げた。ケイが踊り場でタバコをふかしている。上から見下ろされ、苛立ちが増した。 「てめえのせいだろ! 変な噂が広まったせいで、誰も来なくなったんだよ!」 「それはよかった」  にやりと笑っている様に見えて、何度目かの舌打ちをする。遠すぎて見えないが。 「よくねえよ! こっちは生活かかってんだ!」  ケイが喉を鳴らして笑う声が聞こえた。殺意が湧く。 「死にたい人の言葉とは思えませんね」  ぶるぶると握った拳を震わせて、階段を上ってケイを殴ってやろうと思った。しかし、思わず躊躇する。彼に力ではかなわない。認めたくはないが、ハルキは非力だ。そしてケイは豪腕だ。ハルキは精一杯の皮肉を込めて、声を張り上げた。 「お前俺を殺したいんだろ? 降りて来いよ、相手してやるから」  ケイはタバコの煙を吸い込みながら、沈黙した。ハルキはもう一度拳を握り締め、ケイから視線をそらすと、「くそ野郎が」と吐き捨てた。  何度舌打ちしても収まらない。ハルキは思い切り非常階段を蹴ると、ケイを見ないまま、マンションへと歩いて行った。

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