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第6話
インターホンが鳴って、眠っていたハルキは、ぼんやりと目を覚ました。面倒くさくなって、ごろりと布団に寝転ぶ。もう一度目を閉じようとしたが、何度も何度も鳴らされて、頭を掻きむしりながら起き上がった。
「誰だよ、うっせえな」
何の用心もなく、ドアを開ける。しかし、そもそもこの部屋を訪ねてくる人間なんていないのだと思い至って、ドアを閉めようとした。がん、と何かが引っかかる。首筋をかきむしってそちらを見ると、靴がはさまっていた。
仕方なくもう一度ドアを開けると、スーパーの袋を持ったケイがいた。今日はスーツではないものの、あまりにも似合わないその姿に、ハルキは吹き出してしまった。そして、笑っている場合ではないと、玄関に突っ込まれたケイの足を踏みつける。しかしケイは表情も変えず、少し開いた扉に強引に手をかけると、中に入ってきてしまった。
ハルキはケイに聞こえるように舌打ちした。
「なんで勝手に入ってくんだよ」
「開けたあなたが悪いんでしょう?」
言いながら、ずかずかと部屋に押し入って、キッチンの方へ歩いて行った。
ハルキはうんざりして呟く。
「余計なことすんなよ」
「そんなあばらの浮いた体は見ていられません」
むすりとハルキは押し黙った。
ハルキはあまり食事をとらなかった。飲み物も水しか飲まない。大抵傷を負っているので、ほとんど寝てばかりだった。けがの手当てをしないハルキは、寝ていたらそのうち治るだろうと思っている。実際痛くなくなるのだからどうでもいい。
ケイはハルキの返事も待たずに、キッチンの引き出しを開けまくっていた。
「包丁は……」
「あるわけねえだろ」
鍋もない。皿もない。調味料なんかあるはずもない。ケイはしかし、持ってきた袋から包丁とフライパンを取り出した。ハルキは心底うんざりして、大きくため息をついた。
「もう、勝手にしろ」
なんかこの間とずいぶん態度が違うな。
訝しく思いながらも、ハルキはあくびをしながら寝室へ入る。ベッドに寝転がると、うとうととし始めた。
遠くで包丁がまな板を叩く音がする。
こんな音、聞いた事あったっけ。
まどろみながら、冷え冷えとした過去の風景を思い出していた。
料理をする者なんて、誰もいなかった。家政婦がいたような気がするが、記憶には残っていない。息が白くなりそうな程冷え切った空気の中で、一人で食事を取っていた。だから食べる事に興味がない。むしろ嫌いだ。あの家を思い出すから。
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