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第10話

 ケイはいつもより遅く、午前0時を過ぎた頃にハルキの部屋にやってきた。  黙ったままドアを開けたハルキの目の縁が大きく腫れあがっていて、ケイは思わずハルキの腕を掴んだ。手首には縛られた様な痕がある。ハルキがケイの腕を振り切って背中を向け、シャツに血がにじんでいるのが見えた。 「血が」  その言葉にハルキが自分の背中を見ようとする。 「ああ、痛いと思ってたら、切られてたのか」  ふいと前を向くと、ケイなどいないかのように部屋に入って行く。そのまま寝室に行こうとするハルキの腕を強く掴んだ。 「私が殺すっていいましたよね? 背中を傷つけたそのナイフで、もっと深く刺されてもおかしくなかったんですよ」  押し殺した声に、ハルキはびくりと肩を震わせるが、決してケイを見ようとはしなかった。  ケイはハルキを無理やり引っ張ってベッドに座らせた。シャツを脱がせると、鮮血にまみれた生々しい傷以外に、タバコを押し付けられた痕や、刃物で切られたような薄い痕、くすんでしまった痣がたくさんついていた。 「今消毒液を持ってきます」  立ち上がろうとしたケイに、ハルキは声をあげた。 「ほっとけよ! あんたには関係ないだろ!」  ぎしりとケイの顔が強張る。 「放っておける訳ないでしょう?」  ケイにしては珍しく、大きな声を出す。  ハルキは頭を抱えてうつむいた。 「あんた何なんだよ……。殺すなら早くやれよ! あんたを待つ理由なんか俺にはねえんだよ!」  どん、と背中を突き飛ばされ、ベッドから転がり落ちる。痛みに歪んだハルキの顔を見て、ケイは冷たく笑った。 「人肌が恋しいだけの淫売が」  腹を思い切り蹴られ、ハルキは両手でかばいながら呻く。ケイは馬乗りになると、容赦なく顔を殴りつけた。 「あなたのそれは他人を使った自傷行為ですよね? それに快楽が伴うなんて。ただ気持ちよくなりたいだけでしょう? 死にたいだなんて馬鹿馬鹿しい」  殴られた反動で横を向いていたハルキが、ゆっくりと顔を戻し、ケイを強く睨みつける。  ケイは体を起こすと、ハルキの腹を踏みつけた。何度も踏みつけて横腹を蹴ると、ハルキはせきこみながら腹をかばう様に体を丸める。ケイが背中の傷をえぐるように蹴り飛ばす。 「ほら。ほらほら。何をおっ勃ててるんですか、この変態」  膝を蹴って仰向かせると、股間を思い切り踏みつけた。  蹴り飛ばし、踏みにじり、髪をわし掴んで、ハルキの顔を口元へ近づける。 「勝手に死ぬなんて許さない」  頭を思い切り床に打ち付けられ、ハルキは意識を失った。

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