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第11話

 目が覚めると、ベッドの上にうつぶせに寝かされて、背中にはガーゼが貼ってある様だった。ずきずきと熱をもって、痛みが脈打つように襲う。なんとか冷やそうとしたのか、氷嚢が頬の横に置いてあった。  噛みしめる唇も痛い。  こそとも音がしない無音の部屋。もうケイはいないようだ。  ほんとにあいつ、何がしたいんだよ……。  ケイは元々人を殺してみたいと言っていた。躊躇なくビールケースを振り上げたあの時も、男が死んでしまうかもしれないと手加減した様子もなかった。  そもそも最初から、ケイは暴力をふるってハルキを蹴飛ばしていたではないか。頬を上気させて、かすかに嘲笑を浮かべていた。あれがきっと本来のケイだ。  ではなぜ間に優しさを挟むのか。  なぜ好意をいだいているのではないかと、錯覚してしまうような事をするのか。  きっと、おもちゃのように雑に弄んでいるだけに過ぎないのだろう。  でも優しいのだ。  そこだけ見ていたい。  体に触れさえしなければ、ずっと甘い態度のままだ。彼の笑顔を見ると、温かな光が心に差し込んだように、今までにない穏やかな気分になる。  それなのに。  触れられない事が辛い。ケイの態度に委縮してしまう自分がいる。もっともっと、近づきたいのに。  だからハルキは、暴力を求めて繁華街をうろついてしまう。  痛みはすべてを忘れさせてくれる。  そんな事を思っている自分が無様だ。  ハルキは頭を振って、その思考に目を背けた。  寝てしまおう。  ぎゅっと目を閉じる。  そうすれば何もかも忘れられる。この、訳のわからない感情も。

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