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第15話
高校生の頃に父親が再婚し、新しい義母が妹を連れてきた。華奢で、力をいれるとぽきりと折れてしまいそうな線の細い子だった。言葉数は少なく、同じ高校生だと言われても仲良くなれる気はしなかった。
そもそもハルキは、人との距離の取り方がわからない。学校でも常に孤立し、それが当たり前なのだと思っていた。
父はハルキには無関心で、新しく家に来た義母もハルキはおろか、娘や再婚相手であるはずの父にまで無関心だった。
ある夜、物音を聞いて不審に思い、妹の部屋を覗くと、彼女が父に組み伏せられていた。彼の目当てはこの妹だったのだと知って、ショックを受ける。
しかし、うごめく父の姿と、人形の様にだらしなく体を預けている妹の姿をみて、ハルキは興奮した。何度も覗いて、罪悪感と背徳感を味わいながら自慰にふけった。
だが、それは突然終わった。
妹の目が、覗いているハルキの目をとらえた途端、急に命が吹き込まれたように暴れだしたのだ。父親は、抵抗する妹をむりやり押さえつけようとして、強く体を突き飛ばし、彼女の頭はベッドの端に叩きつけられた。がくりと体の力が抜け、こちらを向いた彼女の鼻から血が垂れていた。ハルキは怖くなって自分の部屋に逃げ込んだ。
あれは死んでしまったのではないか。
そう考えると眠れなかった。
次の日、父と義母が、黙々と葬儀の手配をしている事を知って、体が震えた。彼らは無表情で葬儀を終え、特に悲しんでいる様子もなく、もとからそうであったかのように再び普通に暮らし始めた。
ハルキはベッドの隅で震えながら布団にくるまり、何度も妹が死んだ時の光景を思い出した。
あれは自分がもっと早くに止めていれば、起こらなかった事なのではないか。
父と同じように彼女を窃視しながら自慰にふけっていた自分を殺したくなった。
普通に生活している父と義母が恐ろしくて仕方がない。
高校を卒業すると、父親はハルキにマンションを与え、家から出て行けと言った。
せいせいして一人暮らしを謳歌しようと思った。一人である事には慣れている。
しかし、そんなことは許されない。
自堕落な生活を送り、駅前の広場でぼんやりと過ごす。雑踏に紛れていれば、頭の中の声は響いてこないのだ。ありもしない、妹が助けを求める声が。
ある時、ハルキは学生風の3人に声をかけられ、周りを囲まれた。腕を無理やり掴んで、彼らはハルキを自分たちの車に連れていくと、順番に犯した。声も上げられず、なされるがままのハルキに飽きたのか、首をしめあげて遊び、意識を失うと空き地に捨てられた。
光が見えた気がした。
これこそが、自分が求めていた事なのではないか。
殴られ、犯される事で自分を罰し、誰かの手によって殺される事で彼女に報いる事ができるのではないかと。
繰り返すうちに、ハルキは自分が痛みで興奮することに気がついた。彼女に報いるなどと言いながら、無意識のうちに快楽を得ようとしていたのだ。
やはり生きていては駄目だと思った。
何度も屋上から飛び降りようとした。
車道に飛び出そうとした。
駅のホームから線路に飛び込もうとした。
どれも出来なかった。
死ぬ事が怖いのだ。
彼女の最期の顔が頭に浮かぶ。
発狂しそうになりながらも、心もとなくなってきた生活費を稼ぐために、自分の体を売り続けた。酷く痛めつけてもらい、自分ではできなかった、死への一歩を押し出してもらう為にも。
しかし誰も本気でハルキを殺そうとはしなかった。
野垂れ死ぬならまだしも、自分が手をかけたせいで死んでしまう様な事は誰もが避けた。
中途半端に生き永らえ、理由をつけながら快楽をむさぼり、自己を否定しながら死ねずにいた。
段々自分が何をしているのかわからなくなって、頭には快楽だけが残った。
しかしふいに妹に囁かれるのだ。
死んでしまえと。
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