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第16話

 ケイはしばらく押し黙っていた。ハルキも気まずくなって、そわそわとした。誰にも話した事がなかった。自分が死に損なっているなんて。  と、急にケイが立ち上がった。 「どうして」  驚いてケイを見上げるハルキの胸倉を彼は掴む。 「どうしてあなたはそんな風に笑ってるんですか」 わななく唇を噛みしめて、何かに耐えるように眉根を寄せる。 「どういう……」  ぐいと持ち上げられ、ハルキの唇がケイのそれに触れた。  強引に口づけられ、ハルキの頭は沸騰した。思い切りケイの体を突き飛ばす。混乱したまま、真っ赤になっている顔を隠すように唇をぬぐった。 「なにすんだよ!」  しかしケイは何も言わず、もう一度胸倉を掴まれ引き寄せられると、強く抱きしめられた。  耳元で歯ぎしりをする音が聞こえる。  戸惑うハルキを抱きしめる手に力がこもる。  身動きができない。体が固まって、呼吸が引きつる。また、ケイの歯ぎしりが聞こえる。 「離せよ!」  なんとかケイを押しのけると、ハルキはそのままソファにへたり込んでしまった。腰が立たない。破裂しそうな程の心臓の音を聞きながら、真っ赤な顔を伏せて怒鳴った。 「出てけよ!」  ケイは立ち尽くしたまま何も言わない。 「出ていけ!」  顔を覆ってしまいたい。こんな表情見られたくない。  ハルキが俯いていると、ケイが静かに部屋を出て行った。  大きく息を吐く。何が何だかわからない。  こんな。こんな風に。  今まで一度もされた事のない抱擁も、キスも、怒りをぶつけるようになげやりに奪われてしまった。  望んではいたことだ。甘く夢想していなかったとは言わない。自分が初心な少女のようにシチュエーションにこだわっていたわけでもない。  でも、これはないだろう。  涙がにじんだ。  だから……。  どういうつもりなんだよ……。  ケイはそれ以来、部屋に来なくなった。

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