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第17話
インターホンの音が遠くで聞こえる。ぼやけた意識でとらえるが、動く事が出来ずに息を吐いた。ガチャリ、とドアを開ける音がする。
あれ、鍵閉め忘れてたか……。
足音が聞こえ、寝室のドアがゆっくりと開く。その先にケイの姿を認め、もう一度大きく息を吐いた。
2週間ぶりにハルキの部屋を覗きに来たケイは、あわててベッドに横になっているハルキのもとに駆け寄る。
ペットボトルが散乱していた。水だけは摂取していたようだ。
玉のような汗をかき、苦痛に顔を歪め、荒い呼吸を繰り返す。熱があるのか顔がほてっている。
「どうしたんですか!」
軽く体を揺さぶると、ハルキはうっすら目を開けた。
「ああ……。はは、ちょっとヒートアップした奴がいて」
吐息のような声で呟くと、自分の足を見た。
「足折れてるみてえ。すげえ痛いんだけどさ、骨折じゃ死なないのな。当たり前か」
力なく笑うハルキの頬に手をやり、ケイは慌てたように立ち上がった。
「少し待っていてください」
音を立てて部屋を出ていく。
焦ってるケイなんて初めて見たな。と、ぼんやり考えた。
しばらくして戻ってきたケイは、ハルキを抱え上げようとした。大きく呻くと、「少し我慢してください」と、そのまま階段を下りて、エントランスに寄せてあった車の後部座席にハルキをそっと降ろした。
気が付くと病院のベッドの上で点滴のチューブに繋がれていた。
痛み止めを打たれたのか、どこか遠くの方で足がずきずきと疼いている。ぼんやりと膜がはって、自分の足なのに自分のものではないような感覚。
横を見ると、ケイがこちらを見つめていた。
「大丈夫ですか?」
そっと手を取られて、びくりと体を震わせた。一気に目が覚める。
「え、あ……」
恥ずかしい程に狼狽して、ハルキはケイとは反対側の白い壁を睨みつけた。
ケイがここまで連れてきてくれたのか。
ようやく思い出して、そっぽを向きながら、小さな声でつぶやいた。
「ありがとな」
息を吸う音が聞こえた。顔がほてって、ケイの方を見られない。
「どういたしまして」
微笑んでいるのだろうか。少し声のトーンが上がった。
ため息をつく。足は折れたけれど、手を握られた。悪くはないなと思った。痛み止めが切れれば激痛が襲う事を差し引いても。
医者の説明を受けて、特に大した事はないんだなと、ぼんやりと思った。考えていたよりも軽傷だったらしい。松葉杖を渡されるが、よろよろとしてうまく歩けない。ケイが側についていたが、ハルキがなかなか前に進めないのを見て、どこからか車いすを持ってきた。
「いいよそんなの」
「歩けないのに、意地をはらないでください」
ハルキはしぶしぶ車いすに座る。
優しくされると、ケイに触れたくなる。ぎりと奥歯を噛んで、自分の手を押さえつけた。
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