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第18話

ケイに付き添われて部屋に戻ると、ハルキはコーヒーが飲みたいと言った。 もっと胃に優しいものをとケイは眉根を寄せたが、結局はハルキの言う通りにコーヒーを入れてくれた。 一口飲み込むと胃が焼けた。思わず大きく息を吐いてえずく。心配そうに側に寄って来たケイの手が肩に置かれ、予期せず涙が溢れた。 びっくりして目をこする。 「痛みますか?」 「いや、大丈夫だ」 震える声を押し出して、寝室で休むようにと言うケイの言葉に従った。 ベッドに倒れこむと、目を腕で覆って溢れる涙を抑えようとする。しかし、涙腺が決壊してしまったかのように次から次へとこぼれ落ちた。 ケイに触れられただけで、こんなにも心が脆くなる。 「 優しさに弱い」というマトバの言葉を思い出した。 そうだ。 その通りだ。 俺は、誰かに優しくしてもらいたかったのだ。  泣き疲れて寝てしまったのか、目を覚ますと窓の向こうが真っ暗になっていた。子供みたいな真似をしてしまったと舌打ちする。  寝室のドアを開けると、ケイがキッチンで何か作っていた。部屋から出てくるハルキに気づいて、ケイは顔をこちらに向ける。 「どこへいくんですか?」 「トイレだよ」  松葉杖をつきながらよろよろと歩いていると、ケイはハルキの体を支え、とんでもないことを言った。 「付き添います」  一瞬何を言っているのかわからなくて、口を開けて呆ける。 「え?」 「一人じゃ大変でしょう?」  ハルキはぶんぶんと頭を振った。 「大丈夫だから、ついてくんな」  なかなか手を離さないケイを一瞥すると、ため息をつく。しぶしぶケイはキッチンに戻り、「何かあったら呼んでください」と言った。  ケイに表情を見られないところまで俯きながら歩き、真っ赤な顔をごしごしと擦る。  何言ってるんだあいつ。  用を足すところを見られるなんて、どんな羞恥プレイだ。  ハルキは世話を焼きすぎるケイに動揺した。  ベッドに戻ってぐるぐるとする頭を押さえていると、ケイの呼ぶ声が聞こえる。  寝室から顔を出すと、夕食が用意されていた。 少量のおかゆ。 あまり腹はへっていないが、足が楽なソファの方に座ると、運んできてくれた。  横でじっとケイに見守られながら、と言うかガン見されながら、ぎこちなくスプーンを口に運ぶ。二口目で胃がきゅうと縮こまり、思わず吐き戻しそうになった。久しぶりの固形物を胃が受け付けない。  ケイに手で背中をさすられて、びくりとする。体中の毛が逆立った。 「辛いとは思いますが、この量だけは食べてください」  ハルキは声も出せずにこくこくと頷くと、またスプーンを口に運んだ。  ケイが触れた背中が熱い。  どきどきする心臓の音で、味などわからなかった。

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