18 / 23
第18話
ケイに付き添われて部屋に戻ると、ハルキはコーヒーが飲みたいと言った。
もっと胃に優しいものをとケイは眉根を寄せたが、結局はハルキの言う通りにコーヒーを入れてくれた。
一口飲み込むと胃が焼けた。思わず大きく息を吐いてえずく。心配そうに側に寄って来たケイの手が肩に置かれ、予期せず涙が溢れた。
びっくりして目をこする。
「痛みますか?」
「いや、大丈夫だ」
震える声を押し出して、寝室で休むようにと言うケイの言葉に従った。
ベッドに倒れこむと、目を腕で覆って溢れる涙を抑えようとする。しかし、涙腺が決壊してしまったかのように次から次へとこぼれ落ちた。
ケイに触れられただけで、こんなにも心が脆くなる。
「 優しさに弱い」というマトバの言葉を思い出した。
そうだ。
その通りだ。
俺は、誰かに優しくしてもらいたかったのだ。
泣き疲れて寝てしまったのか、目を覚ますと窓の向こうが真っ暗になっていた。子供みたいな真似をしてしまったと舌打ちする。
寝室のドアを開けると、ケイがキッチンで何か作っていた。部屋から出てくるハルキに気づいて、ケイは顔をこちらに向ける。
「どこへいくんですか?」
「トイレだよ」
松葉杖をつきながらよろよろと歩いていると、ケイはハルキの体を支え、とんでもないことを言った。
「付き添います」
一瞬何を言っているのかわからなくて、口を開けて呆ける。
「え?」
「一人じゃ大変でしょう?」
ハルキはぶんぶんと頭を振った。
「大丈夫だから、ついてくんな」
なかなか手を離さないケイを一瞥すると、ため息をつく。しぶしぶケイはキッチンに戻り、「何かあったら呼んでください」と言った。
ケイに表情を見られないところまで俯きながら歩き、真っ赤な顔をごしごしと擦る。
何言ってるんだあいつ。
用を足すところを見られるなんて、どんな羞恥プレイだ。
ハルキは世話を焼きすぎるケイに動揺した。
ベッドに戻ってぐるぐるとする頭を押さえていると、ケイの呼ぶ声が聞こえる。
寝室から顔を出すと、夕食が用意されていた。
少量のおかゆ。
あまり腹はへっていないが、足が楽なソファの方に座ると、運んできてくれた。
横でじっとケイに見守られながら、と言うかガン見されながら、ぎこちなくスプーンを口に運ぶ。二口目で胃がきゅうと縮こまり、思わず吐き戻しそうになった。久しぶりの固形物を胃が受け付けない。
ケイに手で背中をさすられて、びくりとする。体中の毛が逆立った。
「辛いとは思いますが、この量だけは食べてください」
ハルキは声も出せずにこくこくと頷くと、またスプーンを口に運んだ。
ケイが触れた背中が熱い。
どきどきする心臓の音で、味などわからなかった。
ともだちにシェアしよう!