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第21-2話
立ち上がって外に出ようとして、ケイに強く肩を掴まれた。
「どこへ行くんですか?」
ハルキはケイの腕を振り払うと、「あんたには関係ない」と、ドアを開けようとする。再び肩を掴まれて、引き寄せられた。無表情なケイの視線が突き刺さる。掴まれている手をどけようと腕を上げると、ケイは身を引いて手を離した。
強く唇を噛む。ケイの態度が、冷たくハルキの心を砕く。吐きそうになって口元を押さえた。
涙がにじんだ目をこすり、急いでドアを開けようとすると、三度肩を掴まれた。
ハルキは俯いたままドアに背を預けてケイへと向き直る。
「あんた俺を殺す気なんかないだろ」
ケイはハルキを見つめたまま何も言わない。
「じゃあなんで、あんたはここにいるんだよ」
じり、と、ケイが距離を詰めてきた。ハルキは唇をかみしめて、さらに俯く。
「あなたを死なせないためですよ」
それは、ハルキに生きていて欲しいからだ、なんて、そんな甘い言葉にはとても聞こえなかった。
冷気を吐くように言葉を続ける。
「死んで楽になんてさせてあげません」
ケイの声音に背中を氷が滑り落ちたような感覚がした。体が震える。
「何言って……」
「絶望しながら死ぬまで生きてください」
自分の周囲だけ空気が凍り付いたような気がした。砕けたはずの心がまだ痛い。この痛みが永遠に続くような気がした。
叫びだしそうだ。ケイが何を言っているのかわからない。
どうして急に。どうしていつもこんなに急に態度が変わるんだ。
「あんた何なんだよ……」
ケイの目元がさらに陰った気がした。
「あなたの妹」
「え……?」
「あなたの妹は、父と離婚した母に連れられていった私の妹です」
がん、と頭を殴られたような衝撃。目の前がちかちかする。また吐き気がこみ上げてきてしゃがみこむ。
「はは……。何言ってんだよ。そんな偶然あるわけねえだろ!」
「偶然じゃありませんよ。あなたを探し出して近づいたんです」
息がうまくできない。体は冷え切っているのに、目元が熱い。何とか空気を口から押し出そうとするが、喉がひきつって吸うことしかできなかった。
「まさか二晩続けて違う客が同じ場所でサカったとでも思ったんですか?」
路地裏で偶然会った男の顔が思い出される。まさかケイの事務所にいっていたのか。
「母の遺品整理をしていて知ったんです。妹がどのようにして殺されたのか」
確かにハルキの父と義母は1年前に事故で死んでいた。
「あいつらを殺そうと思った。でもすでにもう死んでしまっていた。だから。あなたに復讐しようと思ったんです」
「復讐……?」
「妹が死んだ理由を知って、同じような事をされながらも楽しんでいるあなたを見て、殺してやりたいと思った。でもあなたが死にたがっているのだと知って考えが変わりました。このまま死なせてやるもんかと」
頭にがんがんと音が響いてケイの声がうまく聞き取れない。嫌な汗がじとりと額に浮かぶ。はあはあと、荒い呼吸を繰り返すが、酸素を取り入れられている気がしない。
「簡単に死なせやしない。死にたいと思いながら一生苦しんで生きればいい。あなたは今日から私を見るたびに思い出すんです。妹の死に際を」
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