26 / 54

第26話 戸惑い

 目の前で泣きじゃくる弟を見つめながら、典夫はひどく戸惑っていた。  知矢はどうしてそこまでオレのことを慕ってくれるんだろう?  怖がりのこいつが一人きりで旅をし、神社へ行ってまで、オレがこの家に留まるようにお願いしてきたなんて……。  典夫の心の奥底で淡い期待のようなものが灯る。  もしかして、知矢もオレと同じ思いを抱いてくれてる?  しかし、そう思う反面、それは独りよがりに過ぎない気もして……。  典夫は動けずにいた。  小さく震える華奢な肩。  腕を伸ばして抱きしめたくなる……いつかの夜のように。  でも、今、知矢を抱きしめたら、きっと止まらない。  この想いのままにこいつを自分のものにしてしまうだろう。  だから典夫は身じろぎ一つできないで、ただ愛する人を見下ろすことしかできないでいた。

ともだちにシェアしよう!