29 / 54
第29話 抱擁②
典夫は弟を強く強く抱きしめた。
さっき知矢にお守りを渡され、それを見た瞬間、典夫は知矢の思いを知った。
知矢もまた典夫のことを思ってくれていると。
自分はどうしても一歩を踏み出せなかった。
でも、知矢はありったけの勇気を振り絞って、お守りを渡してくれたのだ。
おまえに告白をさせるなんて、兄として情けないよな。
だから、この先はオレが勇気を出すよ。
典夫は抱きしめた知矢の耳元で囁いた。
「知矢……好きだよ……」
「お兄ちゃ……」
「ずっとずっと好きだったんだ、おまえが。でもオレたちは兄弟だから言えないでいた……。でももう抑えられない。知矢、好きだよ。恋をしてる。おまえに……」
知矢の瞳にまた涙があふれる。
「ほんとに……? お兄ちゃん……」
「ああ……誰よりもおまえが好きだよ……」
「……僕も……お兄ちゃんが、好き……」
知矢が泣きながらギュッとすがりついてくる。
「知矢……」
「お兄ちゃん……」
そして、そっと唇を触れ合わせた。
ともだちにシェアしよう!