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第30話 口づけ

 最初はふわりと触れるだけだったキスはどんどん深くなっていった。  典夫はまるで知矢を食べてしまおうとでもいうように、噛みつくようなキスを繰り返す。  息がちょっと苦しい……。  知矢の唇が空気を求め、開いていくのを待っていたかのように兄の熱い舌が口内に入り込んできた。 「んっ……」  初めての大人のキスがちょっぴり怖くて、逃げようとしたが許されず、舌と舌が絡み合う。  典夫の舌で口内を探られ、知矢は頭がしびれるような感覚を覚えていた。  その感覚が快感だということに気づいたとき、兄の唇がゆっくり離れて行き、知矢の唇の端から二人分の唾液が滴った。  典夫は赤い舌で、その滴りを淫らに舐め、そのまま二人してベッドへ倒れ込んだ。    至近距離にある兄の顔は、今まで見たこともないくらい色っぽかった。 「……知矢、いいのか?」  典夫の綺麗な瞳は、引き返すなら今しかないと知矢に猶予を与えていた。  知矢は兄の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、ゆっくりとうなずいた。  ずっと好きだったんだもん。お兄ちゃんが。  物心ついたときにはお兄ちゃんはいつも傍にいてくれて、そのときからずっとずっと、お兄ちゃんだけを見てきた。  お兄ちゃんだけが大好きだった。  だから……。  兄がもう一度キスを贈ってくれる。 「もう戻れないぞ……知矢……」 「戻りたくない……お兄ちゃん……」

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