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第38話 行為のあと
どうやらしばらく放心状態だったようだ。
気づけば、典夫が心配そうに知矢の顔をのぞき込んでいた。
「知矢……大丈夫か?」
大きな手でやさしく頬を撫でてくれている。
「……お兄ちゃん」
掠れた声で返事をすると、兄はホッとしたように微笑んだ。
「……ごめんな、知矢。オレ、無茶しすぎたな。とまらなくて……」
「ううん……。僕、幸せ……」
お兄ちゃんと結ばれることをずっとずっと夢見ていたんだもん。
長いあいだ、お兄ちゃんに片思いしてて、切なくて辛かったんだよ?
それが今はこんなふうにお兄ちゃんに抱きしめてもらってる。
まるで奇跡。
「知矢、少し眠れ」
典夫はそう言うと体勢を変えて、腕枕をしてくれた。
「うん……」
知矢はうなずいてから、小さく、「ふふっ」と笑う。
「なに?」
「ねー、お兄ちゃん、憶えてる? 昔、同じ夢見れるかなって、手を繋いで眠ったことあったの」
兄も同じように小さく笑った。
「ああ、憶えてるよ」
「あのときって、結局同じ夢見れたんだっけ?」
「さあ、それは憶えてないけど、次の朝起きたときもしっかり手を繋いだままだったのは憶えてる」
大好きな人の甘い声がやさしい眠気を呼び込む。
「……おやすみ、知矢」
兄がまぶたにキスをしてくれ、知矢は眠りの中へと落ちて行った。
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