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第40話 一人暮らしは?

 典夫はそんな知矢を甘くやさしいまなざしで見つめて、額にチュッとキスをしてくれた。  それからポケットの中から、青い縁結びのお守りを出した。 「お守り、ありがとうな、知矢」 「うん……」 「大切にするよ。これのおかげでオレ、勇気を出せた……」 「僕も。さすがにすごくご利益がある神社のお守り……」  そこまで言ったとき、知矢は思い出した。  そもそも自分が一人旅までして、すごくご利益があるという神社まで行ってきた原因を。 「お、お兄ちゃんっ」 「ん?」 「も、もうこの家を出て、一人暮らしするなんて言わないよね!?」  必死になって問い詰める知矢。  しかし典夫はなにやら考え込んでいる。 「お兄ちゃんてばー……」  知矢は不安になった。 「なあ、知矢。オレがこの家を出ようと思ったのは、いつかおまえを襲ってしまいそうな気がして怖かったからなんだ」 「えっ……? そ、そ、そうなの?」  お兄ちゃん、僕のことを思ってくれて、家を出ようとしてたの? 「じゃ、じゃあもう家を出る必要なんてないよね。だって……」  僕たち、もう結ばれたんだから。  という言葉は恥ずかしくて言えなかったが、二人の思いが通じ合った今、兄が一人暮らしをしなきゃいけない理由はなくなったわけだ。  一安心と胸を撫でおろす知矢に、しかし兄はゆっくりと言葉を紡いだ。 「でもな、知矢……」

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