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第46話 愛しい人の香りに包まれて

 その夜は二人で知矢のベッドで眠った。 「知矢のベッドで一緒に眠るのは初めてだな」 「そういえば……そうだね」  怖い夢を見た、怖い動画を見たと言っては、知矢が兄のベッドへもぐり込むことはあったが、兄が知矢のベッドで眠るのは初めてのことだ。 「なんか僕、お兄ちゃんが隣にいないと眠れなくなりそう……」  ポツリと言うと、典夫が額に手を当ててうなった。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「……知矢、おまえ、無意識なんだろうけど、かなりズキュンと来ることを言うよな。だめだぞ、明日、足腰立たなくなったら困るだろ?」 「えっ? えっ……?」  兄の返しに思わずドギマギしてしまい、真っ赤になる。  なんだか今日は赤面ばかりしている気がした。 「今夜は我慢するよ。おまえを壊してしまいそうだから」  典夫はそう言うと、知矢の手を取り自分の手と絡ませた。 「お兄ちゃん……」  知矢は典夫の肩口に小さな頭を乗せる。 「おやすみ、知矢」 「おやすみ、お兄ちゃん」  知矢は愛しい人の香りに包まれて、心地いい眠りへと落ちていく。  お兄ちゃんとおんなじ夢見ること、できるかな……?  頭の片隅でそんなことを思いながら。

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