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第18話 傷心の弟

 酔っぱらって僕にキスをしたことを、お兄ちゃんは憶えていなかった。  あんなキスならいっそ忘れてくれたほうがいいかもしれない。  でも、なんだかもやもやする。胸になにか重たいものが詰まっているみたいに……。  それにあの夜を境に、お兄ちゃんは僕のことを避けているように感じるんだけど、それは僕の思い過ごし?  なんかお兄ちゃんとの距離が遠くなってしまったようなそんな感じがする。  どこかよそよそしい典夫の態度に耐えがたい寂しさを覚える知矢。  そんな日が続く中、典夫はその言葉を口にした。 「オレ、一人暮らしがしたいんだけど」  残業ばかりの父親がめずらしく早く帰宅し、久しぶりに四人そろって夕食の席についているときだった。 「一人暮らし?」  最初に反応したのは父親だった。 「うん。オレの周りにも一人暮らしのやつ、多いし」 「でも自宅から通える距離に大学があるのに、一人暮らしなんて」  難色を示す母親に、 「生活費はバイトして稼ぐから」  典夫はそう返した。 「そんなにアルバイトばっかりしてたら、お勉強のほうがおろそかになっちゃうじゃない」 「まあ、待て母さん。典夫ももう二十歳だ。一人暮らしをしてみるのも一つの社会勉強かもしれんぞ」  あくまでも反対の姿勢の母親に父親が諭すように言う。 「でも、あなた……」  それでもやっぱり母親は反対のようだ。  父親、母親、そして、兄。  三人が話し合うのを、知矢は頭の中が真っ白になる思いで聞いていた。  ……お兄ちゃんが一人暮らし? この家からいなくなっちゃう?  そんなの……、そんなの……。  絶対にやだ……!!

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