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第19話 傷心の弟②

「お兄ちゃん」  知矢は部屋の前で、兄のトレーナーの裾を引っ張って呼び止めた。 「ん? なに?」  兄のやさしい声と微笑みは、やはりどこかよそよそしさを感じさせる。 「本当にこの家から出て行っちゃうの?」 「一人暮らしのことか? ……うん。そのつもりだよ」 「どうして?」 「え?」 「どうして一人暮らしなんかするの?」 「それは、父さんが言うように社会勉強――」  兄の言葉を遮って、知矢は言葉を放った。 「僕がうっとうしいから? いつもお兄ちゃんに甘ったれてばかりだから?」 「バカ! そんなはずな――」 「僕、もうお兄ちゃんの迷惑にならないようにするから! 怖い夢見ても、怖い動画見ても、お兄ちゃんのベッドにもぐり込んだりしないから……だから、この家から出て行くなんて言わないでよ……!」  知矢は一気にそう叫んだ。  ポロポロと涙が零れる。 「知矢……!」  気づけば典夫の腕の中に抱きしめられていた。  痛いほどに強く抱きしめてくる兄の腕。 「お兄ちゃ……?」 「おまえのこと迷惑だなんて思ったことないよ、知矢。オレは……」

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