20 / 54

第20話 自制

 ……おまえを愛してるんだ。  衝動的に知矢を抱きしめてしまったが、その言葉は渾身の自制で抑えつけた。  典夫の腕の中にすっぽりおさまってしまう華奢な弟。  知矢の全てが狂おしいほど愛おしくて、全てを自分のものにしてしまいたくて。  もう限界だった。  典夫は今一度、愛しい人の体を抱きしめる腕に力を込めてから、彼を解放した。  知矢は涙を溜めた大きな瞳を見開いて、典夫を見ていた。  その表情は切なくなるほどかわいい。  典夫は知矢の涙を指で拭ってやってから、自室へと入った。    部屋の中ドアに体を預けながら、典夫は強く思う。  一途にオレを慕ってくれる知矢。  おまえのその気持ちが、オレと同じ種類のもの……恋……だったら、どんなにいいだろう。  おまえがオレに恋愛感情を持っていてくれたなら、オレはどんな禁忌も怖くないのに――――。

ともだちにシェアしよう!