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第21話 弟の決心
「はあ……」
知矢はほとんど食べていないお弁当箱の蓋を閉じ、溜息をついた。
「どうした? 知矢、ぜんぜん食ってねーじゃん。そういや、この頃食欲ないみたいだけど、どこか具合でも悪いのか?」
親友の裕二 が心配げに聞いてくる。
「ううん。大丈夫だよ」
「なにか、悩んでいることがあるなら、聞くぜ? 知矢」
面倒見のいい裕二がそんなふうに言ってくれるが、さすがに話すことはできない。
……お兄ちゃんに恋してるなんて打ち明けたら、それこそドン引きされるよね。
典夫が一人暮らしをしたいと言い出してから一週間が経っていた。
母親が反対しているので、今のところその話は保留になったままだが、知矢は知っている。
兄はもう一人暮らしをすると決めているみたいで、住む場所を探し始めているということを。
お兄ちゃんが出て行っちゃうなんて絶対にやだ、いやだ……。
それに……。
一週間前のあの夜、お兄ちゃんは僕を抱きしめてくれた。
あのときはお兄ちゃん、お酒飲んでないから酔ってもいなかったよね。
あれはいったいなんだったの?
……お兄ちゃんの考えてることが全然分かんないよ……。
知矢が机にぺたりと顔をつけて物思いに沈んでいると、突然女子生徒のかしましい声が耳に飛び込んできた。
「えー、そんなにご利益があるのー? その神社―」
「もー、ばっちり。知る人ぞ知る神社なんだけど、あたしが彼氏と出会えたのも――」
女子生徒はとある県のとある神社がものすごくご利益があると、声高に話している。
「女子ってパワースポット的なところ好きだよなー」
裕二は苦笑しているが、知矢はその話に心が惹きつけられた。
……そんなにご利益があるなら、お兄ちゃんが家にいてくれるようにお願いしてみたいかも。
そんな思いが芽生える。
人間というのは勝手なもので、普段は特に信心していなくても、自分の力ではどうすることもできないことが起きたときは、神様に頼ってしまう。
このときの知矢がまさにそれだった。
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