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「僕の弱点が知りたいの?」 「いや、だって何でもできすぎでしょう、芳晴さん。完璧すぎる人は怖いですよ?性格は置いといても、何か一つ苦手なものとかないんですか?」 綺麗で、家事もできて、性格は破綻してるけどなんでもそつなくこなすときた。あまりにも完璧すぎて本当に人形みたいだ。 「――――朔」 ふと呼ばれた名前に、え?と首を傾げる。キッチンに向かっていた芳晴さんが振り返りにこりと笑った。 「僕の弱点、朔だよ」 「………………俺?」 自分を指さしながら問いかければ、そう、と芳晴さんが頷く。よりによって、俺。俺が弱点?芳晴さんの?意味が分からないとじっと見つめると、芳晴さんが緩く結っていた三つ編みをほどきながら俺の方へと一歩踏み出した。 「お前が僕のものである限り、僕の弱点は朔。だから朔がいなくなったら僕はさみしい。泣くよ。きっと」 「……はぁぁぁ…?」 「お前、自分が思う以上に魅力的だよ」 トン、と俺の胸に右手の人差し指を当てて、芳晴さんが笑う。綺麗な赤なのか金なのかよくわからない色の瞳が俺を射抜いて、一瞬だけ息が詰まった。 いい加減、この人の容貌は目に毒すぎる。ハニーブラウンの長い癖全開の髪も、白い肌も、綺麗な足も、泣きぼくろに口元のほくろも、まつ毛の長い目も、目を惹く要素がありすぎて、正直なれないと困る。  性格がここまで破綻してなければ惚れていたかもしれないと、思う。 「朔」 「なん、ですか」 「好きな食べ物、なに?」 トントンと胸をつつき、芳晴さんが聞いてくる。改まって好きな食べ物を聞かれると思いつかないけど、そうだなぁと口を開いた。 「しいて言うなら、甘いものがすき…かな」 「甘いものか。僕も好きだよ、甘いもの。とはいっても外に出るまでは食べたことなかったからまだ新鮮な方だなぁ」  ふふ、と笑いながらキッチンに向かい、後ろ手に髪を一つに結いながら芳晴さんがぽつりとつぶやいた。 「外?」 そういえば、芳晴さんの事情は何も知らない。俺の事はよく知ってるみたいだけど、俺は芳晴さんがどこの人なのか、今まで何をしていたのか、いくつなのかとか全然知らない。 「芳晴さんって、さ」 「ん?」 冷蔵庫を開きながら、芳晴さんが俺の言葉に耳を傾けてくれているのが分かる。 ぱこんと小気味いい音を立てて開いた冷蔵庫の中身を確認しながら、芳晴さんは「言ってごらん」と俺を促した。 「……箱入りって、言ってたけど、家族は?」 「いるよ~。弟が一人」 「弟」 「そう。あっちは僕が兄だって知らないけどね。ちなみに、僕の両親はもういないよ」 淡々と紡がれる答えに、俺は少しだけ息をのんだ。いないというのは、もうなくなってしまったという事なのだろうか。こんな事、聞いてもいいのかわからなくて黙っていると、ソファに座って待っててと言われておとなしくソファ腰かけた。  俺の両親は小さなころから海外に居て、滅多にこっちには帰ってこない。俺の髪や目の色はおそらく海外の血が強いせいだと思うけれど、生憎と両親は間違うことなく日本人だし、俺のような髪の色はしていない。ただ、母親の祖母は金髪に碧眼だったらしい。それも写真が残ってないからもうわからない事だけれど。  結構自由に暮らしてきたし、芳晴さんの様に箱入りでもなければ、部屋に閉じ込められたこともない。だから、芳晴さんの気持ちは理解できないし、そもそもやっぱり女装に走る理由が分からない。  ―――恐ろしいほどにあってるから違和感はないけれど。 「朔」 「?」 「生クリームと、カスタードだとどっちがいい?」 「え、あ、カスタード……」 「そっか」 ボケっとキッチンにたつ芳晴さんを見つめていると、次第に甘い香りが鼻腔をくすぐる。好きなにおいだ。甘いものは好きだし、甘いにおいも好きだ。 「芳晴さんは、料理、どうやって覚えたんすか?」 「…………必要に迫られて、かな。僕ってば何でもできるから、必要に迫られない限り基本は何もしないタイプだよ」 「え、じゃあ今は?」 「今は……旦那様に奉仕中。これは必要でしょ?僕は朔のお嫁なんだし、旦那様に喜んでもらいたいっていう………嫁的な気持ち?」  ふざけてるのか、本気なのかいまいちわからないから困ってしまう。

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