4 / 24

04

「おいしかったです……………っていうかミルクレープってあんな簡単に作れるんですか………?」 「焼いた生地の間に挟むだけだしね。それよりもお気に召してよかった。で?朔は他に僕の何を知りたいの?」 ごちそうさまでしたと手を合わせながら急な質問に思いっきりむせそうになる。隣に腰かけた芳晴さんは、ソファの背に体を預けながら俺をじっと見つめた。 「さっき、僕の事じっと見てた」 「いや、だってどう足掻いても芳晴さんって絵になるじゃないですか」 「ふーん?それだけ?」 「………いや、えっと」 じっと見つめてくる視線から目をそらして、口ごもりながら言葉を探した。 「……ご両親は、亡くなられたんですか」 「ううん?殺した」 「こっ」  勇気を振り絞り聞いた質問にまさかの答えが返ってきて俺は目を見開きながら芳晴さんに目を向けた。当の本人はきょとんとしている。 「じょ、うだん」 「まさか、僕はいつも本気だよ?」 「え、だって、それって殺人、なんじゃあ」 「………怖くなった?」 「は?いや、………怖いとかじゃ、なくて」 余りにも平然としすぎているから、わからないだけ。 「朔は、普通に育った、普通のいい子。でも僕は、普通に育ったわけじゃないし、朔にはまだ、話せない」 ふふ、と笑う芳晴さんはそれ以上何も言うことなく、ケーキののっていた皿と、フォークと手にするとソファから立ち上がった。 話せないって、何。なんて、聞けなかった。  たった三日。しかも、芳晴さんから声をかけなかったら俺は一生芳晴さんの存在を知らないままだったろう。女装癖なのは置いといて、住む世界が違うような感じがした。 「朔」 押し黙ってじっとしていた俺の頭を撫でながら、キッチンから戻ってきた芳晴さんがさっきよりも近くに腰かける。ギシリとソファが揺れて、視界がぐらりと回った。 「…………芳晴さん?」 見上げた先には、恐ろしいほどきれいな顔。その向こうには天井が目に入る。 「(なんで、この体制、に?)」 ソファに押し倒されて、芳晴さんがにこりと微笑んだ。 「ねぇ、朔」 「は、い?」 「僕は、朔の事がもっと知りたいけど、朔はどう?僕の事、知りたい?」  妖艶と言う言葉がしっくりくるその表情に、背筋がぞわぞわして落ち着かない。けど、見つめるその瞳からそらせなくて、かと言って、言葉も出てこない。喉がからからに乾いた感覚に、喉が鳴った。 「僕の事、教えてもいいよ?でも、朔が逃げない保証が欲しい」 芳晴さんは、その笑みのままで言葉を連ねていく。 「朔が僕から逃げたら、僕は悲しくて死んじゃうよ。それに、僕は朔の事がとても大事。だから、選ばせてあげる。朔はまだ若いから、逃げ道を一つだけあげるよ。でも、その逃げ道を使ったら、僕の話はお預け。朔が知りたいことも教えてあげない」

ともだちにシェアしよう!