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選ばせる気なんて、はなからないような口ぶりだ。最初から偉そうな芳晴さんの言葉は、表裏がない。だからこそ、俺が知りたい事を教えないと言ったら、それは事実なのだろう。なら、さっきの話せない、と言ったのは? 「芳晴、さん」 「なーに?」 「……………さっき、まだ、はなせない、って」 言ったじゃないですか。そう続ければ、芳晴さんはうん、と答えた。違う。それじゃあ答えになってないじゃないか。はぐらかす気なのかとにらむと、違うよと笑う。 「朔が本当に知りたいなら、教えたっていいよ。僕の事は僕が一番知ってるんだし。でもね、朔が逃げない保証がないと、無理だよ。さっきも言ったでしょ?僕の弱点は、お前だよ」 朔がいなくなるのが、一番いやだよ。  芳晴さんの言葉に、なんで俺なのか、どうして三日前に初めて会った人間にそこまで執着できるのか、全然わからなかった。わからなかったけど、嘘じゃないとは、思った。 「…………三日前、大学の入り口で芳晴さんに、初めてあったのは、俺だけ?」 「……そう、朔だけ。僕は朔を昔から知ってるから」 「昔、って」 「お前がうんと小さなころだよ」 「―――そんな、芳晴さんだって変わらないでしょ、俺とそんなに」 年なんて。とつづけた言葉に、その表情がわずかに曇って、違うよ。と言葉が続いた。 「僕は、お前が小さなころからこのままだ」 「このまま………?って、」 「――――――――――――――…どうする?朔。知りたいの?僕の事」  ずるいと小さくつぶやいた。芳晴さんは、ずるい。 人間、誰だって中途半端に知ってしまうとその先が気になってしまう。 「………逃げない保証、って、なんすか」 「そうだね。僕の所有印を刻ませてほしいかな」 「―――しょゆういん…?」 そうだよ、と芳晴さんは俺の体を起こして、ここに、と心臓の部分に指をあてた。 「僕のものだって、刻ませてくれれば、それでいいよ」 詳しいことは刻んでから話すよ。とそう言われてしまえばそれ以上聞けない。芳晴さんの長いまつ毛が揺れて、どきりとした。本当に、一挙一動が絵になるから困ったものだ。 「どう?僕の旦那様」  伏せていた目をあげて、芳晴さんが首を傾げながら聞いてくる。本当にきれいな顔だなと場違いに考えながら、ふと息を吐いて拳を握った。 「どう、って聞かれても……、芳晴さんは、結構勝手に何でもしてるじゃないですか。今更そんな、同意を求められても、そもそも、ここに居るのだって俺、了承はしてないんですよ?」 目線をそらしながら少しひねくれた回答をすると。芳晴さんの手が俺の顔を包み込むように触れた。ふんわりと甘い香りが漂って、眩暈がする。

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