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「僕からそらすの禁止。だめ」
「っ、はぁ……?」
「お前は僕だけ見てればいいの。他は見ないでいい」
「はぁ?あんたいい加減に」
「朔は、僕だけ見てればいいの。他はだめ。見なくていい。僕よりきれいなものなんてないんだよ」
なんでこんなに必死なんだとか、甘い匂いがするだとか、ドアップにも耐える顔だな、とか、そんな思考が一瞬で駆けて、
だけど、それよりもチカチカと眩暈がして、芳晴さんの視線から逃れるようにわずかに目を伏せた。俺の顔に触れてる手が熱くて、でも振り払えなくて、振り払ってしまったら「だめだ」と思った。
「朔」
僕を見て。と芳晴さんがつぶやく。伏せた瞼をあげて、芳晴さんを見た。
「僕には、人間の気持ちはよくわからない」
「―――――は?」
「わからないんだよ。僕は、そんなに自分勝手なの?」
「………芳晴さん…?」
人間の、気持ちは、って、なんなんだろう。芳晴さんだって、同じ人間じゃないか。
「朔は何をすれば喜ぶの?僕はお前が一緒にいるだけでこの上なく幸せだし、僕が奉仕すれば朔が喜ぶと思ってたんだけど、違った?なら、僕はお前に何をすればいい?何をしたら僕を好きになる?」
「は?え?ちょ、待ってもらえます?」
「……うん」
芳晴さんがゆっくりと離れて、俺の顔からも手が離れた。とりあえず整理しようと、俺は腕を組みながらソファに座りなおした。芳晴さんは相変わらず俺の方に体を向けたまま、首を傾げた。
「あの」
「うん」
「芳晴さんって。俺が好きなんですか?」
「え、今更」
「………………いや、俺それ初耳ですよ」
「…え?」
そこからすでにすれ違いが生じてるのか、と、まるで他人事のように思ってしまった。俺は、そうか、芳晴さんに「好かれ」ているのか。
「僕言わなかった……?」
「今、初めて知りました。あんた、三日前から気に入ったとか旦那様とかは言ってますけど、好きとは言ってないですよ。っていうかそもそも俺、男なんですけど…」
「僕たちの種族に男女の性の差は関係ないよ?男女関係なく子はできるもの」
「……………………えーっと、ちょっと、待ってくださいね」
完全に爆弾だ。爆弾発言だ。できれば聞きたくなかった言葉がぽーんと飛んできた気がする。その不用意に飛んできたワードに頭を思いっきり殴られた気分だ。
「僕たちの種族、って、何ですか」
「鬼」
「…………………俺、最近そのワードに縁があるんですけど……あんたってもしかして、鬼城の血縁とか、じゃ、」
「違う。僕は僕。血縁は関係ないよ?元はみんな同じ霊山から出たってだけで、鬼城は人間社会にうまく溶け込んでるだけ。力があるから有名なだけだよ」
でもなんで知ってるの?と首を傾げたままの芳晴さんに、俺はため息交じりに「あぁ」と声を出した。
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